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赤ずきんちゃんと狼さん  作者: 星狼


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1/6

狙われた少女

森の奥、木々の隙間から差し込む薄い光が、埃のように舞う部屋の中。

ベッドの上で、狼は息を潜めていた。

毛布の下に隠した牙を、そっと舌で確かめる。

今か今かと、待ち焦がれる獲物――あの赤いずきんを被った少女が、扉の向こうに近づいてくる気配を、耳で、鼻で、肌で感じ取っていた。

必ず、食べてやる。

その柔らかな首筋を、温かな血潮を、すべて自分のものにしてやる。

そんな獣の欲望が、胸の奥で静かに煮えたぎる。


ギィ……


古い木の扉が、ため息のように軋んだ。

少女が入ってきた。

赤い布が揺れ、部屋に淡い花のような香りが広がる。

彼女はベッドに近づき、いつものように、純粋な瞳でこちらを覗き込んだ。


「あれ? おばあちゃん、どうしてそんなにお耳が大きいの?」


その声は、鈴のように澄んでいて、狼の耳朶を甘く震わせた。

簡単には騙されないだろう。

だが、この程度の質問は予想の範囲内だ。

想定内の答えを、喉の奥から絞り出す。


「それは、お前の声をよく聞くためだよ」


少女は少し首を傾げ、続けた。


「そうなんだ。あれ……? じゃあ、おばあちゃんのお目目はどうしてそんなに大きいの?」


マズい。

顔を見られたか。

慌てて毛布を顔まで引き上げ、影に表情を沈める。

心臓が、獣の鼓動を刻むように速くなる。

それでも、声だけは穏やかに保つ。


「それは、お前のことをよく見るためだよ」


少女を食い殺すための、嘘。

騙すための、甘い言葉。

彼女の瞳に映る自分が、どれほど滑稽な姿をしているのか、狼は知りたくなかった。


「あぁ、そうなんだ? あれ……? じゃあ、おばあちゃんのお手々はどうしてそんなに大きいの?」


舌打ちが、心の中で響く。

なんて目ざとい少女だ。

毛布を被って顔を隠したはずが、今度は掴んだ手に気付かれた。

だが、ここで動揺を見せてはならない。

狼は深く息を吸い、静かに答える。


「それは、お前をしっかり抱き締めるためだよ」


我ながら、ロマンティックな答えが出せたと思う。

だが、もう限界だ。

こんな戯れに付き合うのは、耐えられない。

次はきっと、口の質問だろう。


それなら、もう――


「お前を食べるためさ!」


と叫んで、飛びかかってやる……!


そう心に決め、牙を研ぐように舌を這わせた瞬間、

少女が再び口を開いた。


「そうなんだ。じゃあ、次は右のベッドのおばあちゃんに質問するね? 右のベッドのおばあちゃんは、どうしてそんなにお耳が大きいの?」


……え?


世界が、一瞬、凍りついた。

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