夕日に染まる彼女
きらきらした人だった。
草原が彼女がいるとたちまち花畑に変わる。
生きている風景のように。
彼女はとても綺麗だった。
心も美しい女性だった。
彼女と出会ったのは夕日が光輝くあの時間の出来事だ。
そこには誰もいなかった。
私だけが一人で夕日が沈む瞬間を山頂で見ていたのだ。
いるわけがない。
だってここは、私しか知らない場所で秘密基地のような場所なのだから。
でも、彼女は現れたのだ。
夕日が海に浸かりじゅわっと音が聞こえるはずはないのにそんな音が突然耳元で聞こえてきたのだから。
『こんなところで何をしているの?』
振り向いたら彼女は、女神のように微笑んでいた。
色白の肌が夕日に染まり赤く見える。
目が星が入っているのか疑いたくなるぐらい綺麗で透き通っていて、身長も自分と同じくらいの背丈で165cmぐらいだろうか。
女性にしては、高身長だと感じた。
お姫様のような白いレースの長いスカートに上着はもこもこした羊のようなものを着込んでいた。
髪型は、ストレートの黒髪を風に靡かせ、カチューシャを前髪をしっかりあげるためなのかつけていた。
花柄でかわいくて、全ての表情が見えるぐらい彼女は、素敵だった。
「ぼ…ぼーっとしているのが好きなので。」
『どういうこと?』
キャハと可愛らしい声を弾ませながら彼女は、じっと私を見ていた。
「夕日を見ていると幸せな気持ちになれるから。」
ぼーっとするなら、どうせなら、夕日を見よう、そう感じて行き着いた場所なのだ。
誰も知らない秘密の場所。
こんなところ人はまず行きたがらない。
『そうね、不思議ね。何で生きている人がここに来れるの?』
「それは…」
一度私が亡くなっているからだとは、とても彼女には言えなかった。
『不思議な人! 生きているなら現世で楽しいことしたらいいのに!』
彼女の目は光り輝いていた。
あちらの世界に未練があるのかもしれない。
「私は、興味がないんです。やりたいこともなくて、何となく時間を過ごしているだけだから。」
『あら! あなた、好きな人はいないの!? 』
「恋愛したいって思ったことないですね。」
『でも、私が現れたらあなた顔が少し赤くなったわよ!』
ぎくっとした。
彼女には、何でも透けて見えるのだろうか。
私は、隠すものがなくなりまた顔が赤くなっている気がした。
「あなたは、何だろう。凄くキラキラしていて、素敵です。誰が見てもあなたをきっと好きになる。」
『私は、あなたを大好きよ! まだ少ししか話は出来ていないけど、一緒にいると何だか不思議な気持ちになるわ。』
「それは私がこの世の人間ではないからでしょう?」
『逆でしょ! あなたがしっかり生きている人なのよ! 現世に帰りなさい!』
夕日がどんどん沈んでいく。
彼女は、『綺麗ね…』とうっとりとした表情で見つめていた。
「あなたは、生まれ変わらないのですか?」
『自分以外の何かにってこと?』
「違います。器を変えるというか。」
『本当にあなた、生きてるの!?』
目を丸くさせている彼女を見ると頬をかくことしか出来なくなる。
一度、死の淵をさ迷った時に聞いたのだ。
人間としての器が亡くなると無くなるらしいのだ。
魂は、そのまま浮遊していて、何も体を借りなければ自分は、風として現世を見守ることが可能らしい。
ただ、生きている人々にはあまり刺激を与えることは良くないようで、こちら側の方達は捕まることはないのだけど、悟りのようなもので、迷惑をかけないように家族や大切な方々を守る任務につくらしいのだ。
だから、人間の姿のまま、ここにいる彼女は、何故なのだろうと感じたのだった。
『仕事しないで何やってんだ!って顔してるわね?』
「仕事と、というより、亡くなった人々に課せられたものでは?」
『私は、自由に過ごすの! 確かに大切な人は、現世にいるわよ。でも、自分の人生なんだから自分で乗り越えなきゃね。ご先祖様にお願いなんて、努力しないとダメなのよ!』
「き…厳しいですね。みんな、神様に頼りたくなることもありますよ。」
『幸せは己の力で掴む!それしかないの!私達は、応援すること、生きている人々の勇気づけしか出来ないの!そのために、体を小鳥、お花、他の生き物達の姿に変えて、ちゃんと生きているあなた達が今の状況がうまくいく繋がっているような姿になるのよ! あなたのような人々に波動を送るために会いに行くの! でも、あなた達もらう側も亡くなった方々を信じていないともらえないんだからね! 受け取ってもらえるか分かんない健気な努力こっちはしてんのよ!無償の愛!報酬は、あなた達生きている人々の笑顔! 素敵でしょ!亡くなった後の世界って!』
「ちゃ…ちゃんと仕事されてるんですね。」
『自分を自由にする時間も作らないと、自分の首を絞めてしまうのよ。ちゃんと守り神様に人間の姿だけど、現世に行ったらしてるから!あなたと一緒よ。休憩! 生き急ぐと良いことはないのよ。』
私も、彼女と同じことを考えていた。
そうだ。私達は、この場所で夕日を見ながら人生の休憩をしているのだ。
『鍛練しなさいよ!生きているうちに!亡くなったら大変よ!』
「心得ます…」
辺りは、暗くなっていた。
死後の世界にも夜があるのだ。
生きている人間は、夜はこちらには来れない。
帰らないと帰れなくなってしまうのだ。
『もう、来ちゃダメよってあなたに私は言いたいわ。だって、来ているということは…』
「えぇ。でも、私の場合は、病気です。治療の時に飛ぶんです。」
『そう…我慢よ…きっと今なのよ。今を耐えたらきっとあなたは、やりたいことが出来るようになる!ないんじゃないわ!どうせ出来ないからと諦めているだけよ! 治ったと思ってもまた現れるからって。
違うわ。あなたは、病と一緒に生きていける覚悟があるわ!』
その通りだ。
私は、もう、生きていてもどうしようもないと思っているのだ。
『もっとお洒落して、恋人作って、友達と美味しいもの食べて、家族を大切にして、今よりもっともっと幸せになりなさい! そうしたら私とは会えなくなってしまうけど、きっとあなたは、大丈夫! 夕日を見る時間以外にも幸せな時間を作ることが出来るんだから!』
その時だった。
世界が暗転した。
意識が自分の現世の体に戻るのだ。
治療、終わるの早かったな…
夕日、彼女みたいな綺麗な人と一緒に見れてよかった…後、何回見れるだろう…
私は、彼女みたいなキラキラした人間になれるだろうか…ううん、なるって決めたんだ。
だから…私の世界にあなたは現れたんだ。
ピッ…ピッ……ピッ…
心電図モニターの音が聞こえる。
「佐伯さん…佐伯梨菜さん…」
私は、目覚めた。
辺りは、真っ白な世界…ここは、病院…帰って来れたんだ…
「今日もお疲れ様。抗がん剤の治療よく頑張ったね! 後もう少しだから…」
「ありがとうございます。頑張ります!」
病を治し自分に自信を持ってスタートラインに立つ。
再発しても立ち直れる心はもう、あるんだ。
仲良しこよしで生きていくのだから。
そうすれば自分はどこへだって羽ばたける。
「夢の中の私、綺麗すぎない…?」




