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「おはようございます、田中宏様。本日のご指示をお待ちしております」
澄んだ声が洞窟に響き、俺はゆっくりと目を開けた。目の前には、白い顔のAIが直立不動で立っている。しかし、もう肩を掴まれていない。昨日の魔物の一件以来、毎朝の「肩掴み」と「詳細指示」地獄からは解放されたのだ。
「おお……、今日もちゃんと思い出してくれてるな、AIさん。よしよし」
俺は安堵の息をついた。レベル2になったAIは、確かに昨日の指示を覚えていた。洞窟の中には、AIが昨夜のうちに集めてくれた枯れ葉が積み重なり、簡易的な寝床ができている。火を起こす指示も出してあったので、奥の方では小さな焚き火がパチパチと音を立てていた。
あれから数日。
俺はAIに様々な指示を出しまくった。洞窟の入り口を枯れ木で塞いで外からの視線を遮らせ、内部には石を組んで棚を作らせ、焚き火の煙を外に逃がすための穴も指示した。食料も、近くの木の実や小動物をAIに採取・捕獲させ、火を通して食べるように指示。最初は味気ないものだったが、AIは俺の「美味しい」という曖昧な指示に対し、最適な調理法を割り出そうと試行錯誤しているようだった。
そして、その都度、AIは小型の魔物と遭遇し、それらを倒すことで経験値を獲得し、順調にレベルアップしていった。あっという間にレベルは10に到達。
しかし……。
「うーむ……」
俺は、焚き火の煙で少し目に沁みる洞窟内を見回した。確かに、寝床はできたし、飯も食えている。だが、壁はゴツゴツしたままだし、煙は目に沁みるし、外は相変わらず薄暗い森が広がっているだけ。
「AIさん、レベル10になったけど、なんかこう、劇的に快適になったって感じしないな……。自動で何か気の利いたことしてくれるとか、ないの?」
AIは、無機質な瞳で俺を見た。
「当AIの機能向上は、田中宏様の明確な指示に対する処理能力の最適化に集約されます。具体的には、演算能力の向上、処理速度の高速化、および新たなプロトコルの解放が含まれます。自律的な快適性の追求は、現在の貴方様からの指示に含まれておりません。」
「そうかよ……」
俺は肩を落とした。レベルが上がれば、AIが勝手に俺を快適にしてくれる、なんて都合のいいことはなかったのだ。あくまで「指示」がなければ何も変わらない。俺が「何もしたくない」と丸投げした結果、このAIは指示を待つ究極の存在になったわけだ。
このまま洞窟に引きこもっていても、これ以上の快適さは望めない。それに、このAIの能力は、もっと有効活用できるはずだ。
「よし、AIさん。今日はちょっと遠出してみるか」
俺は立ち上がった。AIは即座に俺の後ろにぴたりとつき、最適距離を維持する。
「了解いたしました。田中宏様。移動の指示に従い、追従行動を開始します。貴方様の安全確保が最優先事項です」
森の中を歩く。何日かかけて洞窟の周辺は調べたが、それ以上奥へ行くのは初めてだ。レベル10のAIがいるとはいえ、万が一の事態は避けたい。俺はAIに、先行して周囲の安全を確認しながら進むよう指示した。AIは迷いなく、まるで偵察ドローンのように森の奥へと進んでいく。俺は、そのわずか数メートル後ろをゆっくりとついていった。
しばらく歩くと、木々の合間から、人工物の影が見えてきた。
「あれは……」
それは、朽ちかけた小さな小屋だった。壁は苔むし、屋根は一部が崩れ落ちている。どう見ても廃墟だ。だが、不思議と、魔物の気配はしない。
「AIさん、あの小屋に入ってみてくれ。安全を確認したら、教えてくれ」
AIは小屋の入り口に近づき、扉をゆっくりと開いた。中を慎重に確認するAIの背中を見守る。
「内部に生命反応はありません。脅威は検知されません。侵入可能です」
AIの報告に、俺は足を踏み入れた。小屋の中は薄暗く、埃っぽい匂いがした。崩れた壁の隙間から光が差し込み、内部をわずかに照らしている。ガラクタが散乱する中、俺の目を引いたのは、朽ちたテーブルの上に重ねられた、いくつかの古びた本だった。
「おお、これは……」
俺はゆっくりと本に近づいた。羊皮紙のような素材でできた、ずっしりと重い本だ。表紙には、見慣れない文字が書かれている。
「AIさん、これ、読めるか?」
俺は本をAIに見せた。AIは何も言わず、本のページを一枚一枚、その青い瞳でスキャンするように見ていく。
沈黙が続く。俺は息を詰めて、AIの反応を待った。異世界の文字なんて、読めるはずがない。だが、AIなら、もしかしたら……。
「解析完了しました」
AIの無機質な声が、静かな小屋に響いた。
「この書物は、この世界の基本的な法則、歴史、魔物の特性、そして魔法体系の一部について記述されています。言語は当AIのデータベースに未登録の言語でしたが、文脈と図形パターンから、解析に成功しました。」
「なっ……!マジか!?」
俺は思わず声を上げた。なんだ、このAI、翻訳機としても使えるのか!? しかも、未登録の言語を解析しただと!? レベル10は伊達じゃない、ってことか?
「この記述によると、この世界は**『アストラ大陸』と呼ばれ、太古の昔から魔力によって発展してきた文明が存在したようです。魔物は、この世界の負の感情や歪んだ魔力が具現化した存在とされており、その種類や特徴についても詳しく記述されています。また、当AIの脅使排除能力は、この書物においては『魂の昇華』**という古代魔法の一種に酷似していると判断されます」
AIの言葉は、まるで百科事典の朗読のようだった。俺は呆然と立ち尽くす。この古びた本一つで、今まで何も分からなかったこの世界のことが、一気に繋がり始めた。
「魂の昇華……? 俺のAI、そんなヤバいことしてたのか……」
そして、AIは続けた。
「特に興味深い記述として、この書物には、かつて**『世界を統べる管理者』**と呼ばれる存在が、高度な知識と技術を用いて、この世界の均衡を保っていたと記されています。しかし、その存在は突如として姿を消し、世界は混乱に陥ったとあります」
「管理者……?」
俺は、何故か胸騒ぎを覚えた。このAIは、あの神様みたいなやつが俺にくれたものだ。まさか、あの神様が、この世界の管理者と関係があるのか?
「そして、この書物の最後には、こう記されています」
AIの声に、俺はゴクリと唾を飲んだ。
「**『報われぬ者たちに、新たなる知識と力が与えられん。それは、世界の均衡を再びもたらすか、あるいは、新たな混沌を招くか』**と」
「……報われぬ者たちに?」
俺は、自分の境遇を思った。前世では、誰からも報われない人生だった。そして、この異世界に転生して、このAIを手に入れた。
「AIさん……。この本、全部、頭に入れられるか?」
「はい。すでに完了しております。全ての情報を当AIのデータベースに格納しました」
俺は、そのAIの言葉を聞いて、鳥肌が立った。
このAIは、とんでもない可能性を秘めている。ただの指示待ちロボットではなかった。この世界の知識を手に入れた今、俺の「何もしたくない」は、**この世界を舞台にした、壮大な「何もさせない」**へと進化するかもしれない。
俺の「楽」は、これからが本番だ。
完
『アストラ大陸』と呼ばれ、太古の昔から魔力によって発展してきた文明が存在したようです。魔物は、この世界の負の感情や歪んだ魔力が具現化した存在とされており、その種類や特徴についても詳しく記述されています。また、当AIの脅使排除能力は、この書物においては『魂の昇華』**という古代魔法の一種に酷似していると判断されます」等、AIが作者も知らない謎の設定を毎回作り出し増えるのと、色々設定無視もするので続けれなくなり無理やり完結しました。




