魔導大会と、再会の剣
王都に潜入して三日。
わたくしとセリアは、ひたすらに情報を集め続けていた。
街角の噂、酒場の会話、流通の変化。
あらゆる断片が、ある一つの場所に結びついていた。
――王立魔導大会。
魔導学院主催、貴族も平民も問わず、実力ある魔導師たちが腕を競う“表の舞台”。
だが裏では、貴族の勢力争いや、魔導技術の売買交渉の温床でもある。
「出るわよ、セリア」
「えっ!? リディアが!? 本当に!?」
「出ない理由があるかしら?
むしろ、“派手に目立って情報を引き出す”には最適じゃない?」
「えっと……身分、バレないかな?」
「“変装した伝説の旅魔導師”って設定でいきますわ。あとでサイン書くわよ?」
「えええ、完全に別ジャンルのスター化してる……!」
そう。
バレなければいいのよ。バレなければ。
……ええ、でも“バレてしまう可能性”が一人だけいるのよね。
彼――
ルーファス・カインズ。
わたくしの元婚約者であり、王国最強と名高い若き騎士団副団長。
──そして、わたくしを断罪の場で“見送った人”。
「会いたくないわけじゃ、ないのよ。ただ……」
会ったとき、わたくしの中の“なにか”が、また揺らいでしまいそうで――
◆
大会当日。
わたくしは、仮名でエントリーしていた。
名を――「リディ」。
うん、まさかバレないでしょう(皮肉)。
観客席はすでに満席。
セリアは客席中央の“貴族区域”で、こっそり情報収集中。
わたくしは選手控えエリアで、魔導師たちの視線を適度に受け流していた。
「リディ選手、第三試合です。ご準備を」
「ええ、いつでも」
マントを翻し、立ち上がる。
剣ではない。わたくしの武器は魔導。
けれど、舞台に上がれば、魔導もまた剣となる。
◆
そして。
第六試合、決勝トーナメント第一枠。
アナウンスが響いた。
『次の対戦は――』
『“リディ” 対 “ルーファス・カインズ”』
時が、止まった。
鼓動が、一拍、飛んだ。
──ええ、まさかこのタイミングで“くる”なんて。
会場がざわめく中、遠くの通路から彼が現れた。
黒い騎士服、冷たいまでに整った横顔。
変わらない。
けれど、その瞳はどこか……痛みを湛えていた。
「…………」
「…………」
言葉はなかった。
けれど、見つめ合っただけで、心の奥に“あの日”が蘇った。
──大広間での断罪。
──彼の目は、ただ、冷たく。
いや。
違う。
ほんの一瞬、あのときの彼は……“何か”を飲み込んでいた。
その真実が、わたくしをいま、刺す。
◆
「始め!」
合図と同時に、空気が張り詰めた。
ルーファスの剣が抜かれる音すら聞こえないほど、観客が息を呑んでいる。
一閃。
視界を断ち切るような踏み込み。
その剣撃は美しかった。まるで“流星”。
でも。
「解析、展開――《螺旋盾・双層》」
わたくしの魔導は、それを“受け止めた”。
「……やっぱり」
彼が、呟いた。
「君だったんだな」
「……ええ、残念ね。“変装”が効かなかったなんて」
「……変装、というより……俺が、君を忘れられなかっただけだ」
「…………っ」
不意打ちのように響いたその言葉に、心が揺れた。
でも、今は戦いの場。
「続けるわよ、ルーファス。
わたくし、今のわたくしを、“あなたに見せたい”の」
「……ああ。なら、俺も応える。剣で――心で」
◆
空間を裂くような、剣と魔導の交差。
ルーファスの剣術は、“護る”ための型。
わたくしの魔導は、“貫く”ための型。
だけど、その根底にある想いは――同じだった。
「……あなたは、なぜ、何も言わなかったの?」
「俺には……君を守れる資格がなかった」
「それでも、あのとき! 一言だけでも、あったら……!」
「許してくれとは、言わない。でも――今なら言える」
ルーファスが、剣を下ろした。
「リディア。俺は、君を……忘れたことなんてなかった」
「…………っ」
涙は、こぼれなかった。
でも、胸の奥がふるえて、声にならなかった。
審判が、勝敗を告げる。
『勝者――リディ!』
観客が沸き立つ中、
わたくしと彼は、微かに頷き合った。
剣では決着がついたけれど。
心の答えは、まだ――これから。
◆
控室に戻ったわたくしを、セリアが出迎える。
「おつかれさま! リディア、すごかったよ……!」
「ふふっ、当然でしょ?」
「でも、ちょっと赤くなってるよ? 顔」
「……湯気よ、湯気」
「え? お風呂あったのここ?」
「気持ちの話ですわ!!」
セリアが笑った。
でもその目の奥は、少しだけ寂しげで、温かかった。
「リディア。……ルーファスのこと、まだ――」
「……それは、いまは考えないわ」
わたくしは胸元を軽く握った。
「だって、まだ“仮面の王子”と出会ってないもの」
セリアがぴくっと反応する。
「まさか……仮面舞踏会、行くつもり?」
「もちろん。“悪役令嬢の仮面舞踏会”、楽しそうじゃない?」
「またフラグ立ててる……!」
でも。
乙女ゲームは選択肢で分岐する。
そしてわたくしは今、自分の選択で、未来を変えているのだから。
――次のステージへ。
仮面が交錯し、真実が舞う――
“舞踏会”の夜が、近づいている。




