華麗なる王都潜入作戦
王都ゲート前――。
「……緊張してる?」
「ええ、少しだけね。顔に出てるかしら?」
「ううん。完璧。どこからどう見ても、“元・貴族で伝説の魔導師で精霊契約者の美少女”には見えないよ」
「それ、褒めてるつもりなのかしらセリア?」
「もちろん!」
……複雑な気分よ。褒められてるのに。
◆
今回の作戦の目的は、ただの“王都再上陸”ではない。
わたくしの名は、もう“王都出入り禁止”の記録付き。
正面突破などすれば、十中八九、捕まるか“あの頃の知人”に見つかるかで面倒なことになる。
だからこそ。
「身分を偽って、まったくの“別人”として王都に潜入する」
「で、そのために……“平民用ドレスショップ”に?」
「そうよ! 転生者たるもの、ファッション戦略から勝負が始まってるのよ!」
そう、今わたくしたちは――
王都東区、路地裏の“庶民派おしゃれ店”の中にいる。
「見てセリア、この品揃え! これが『庶民センス×個性全開』の破壊力……!」
「わぁ……意外と可愛い……」
「ふふ、可愛いだけじゃないのよ。これ、“映える”の。
色味とシルエットがカメラ映え――じゃなかった、“視線映え”するように計算されてるわ!」
そう。
わたくしの前世は乙女ゲームとVtuberに魂を捧げた29歳OL。
キャラデザ、視線誘導、色調トレンド、ファン心理……
オタクとしての英知を、いまこそ“リアル世界”にぶつけるとき。
「じゃあ、この服なんてどうかしら?」
手に取ったのは、生成りのレースチュニックに、ターコイズのリボンがあしらわれた旅人風ワンピース。
動きやすさと可愛さを両立、襟元のデザインで顔回りが華やかに映える。
「これ……似合うよ、絶対」
「ふふ、それを着て“ただの平民の旅芸人風魔導師”として、王都を歩くのよ」
「……なんだか、わくわくしてきた!」
「よし、じゃあセリアにはこっちね。控えめなカーディガン系ヒロイン、優等生枠で!」
「え、わたしその属性なんだ……」
「大丈夫、現代でも人気の属性よ!」
「現代……?」
「こっちの話ですわ!」
◆
ドレスを選び、髪をまとめ、身分証を偽造し、
さらには魔導式メイクで少し印象を変えて。
鏡の中にいたのは、どこにでもいるような旅人ふうのふたりの少女――
……に見えるように仕上げた、“わたくし”と“セリア”。
「リディア、すごいね……! ほんとに別人みたい……!」
「わたくしって、“素材がいい”から変化の幅も広いのよね」
「はいはい、“傾国の美少女”ですもんねー」
「自覚はあるけど、そう言われるとちょっと恥ずかしいわね……」
……ほら、顔が熱いじゃない。
「でも、これは“戦い”よ、セリア。わたくしたちは情報を集めるために潜入してるの。
忘れないで。“オシャレ”は武器。ドレスは鎧。可愛さは情報操作」
「え、かっこいい……! リディアってば名言製造機……!」
「乙女ゲー10年修行の成果よ」
「10年!?」
「前世の話ですわ。なんでもありません!」
◆
そして――。
王都の門を、くぐる。
衛兵たちの視線が一瞬こちらを向く。
けれど、すぐに通り過ぎる。
“わたくし”を、“リディア・アルヴェイン”として見る者は、もういない。
「……入りましたね」
「うん……ほんとに、入れたね……」
「セリア」
「なに?」
「今からが本番よ」
王都の空気は、やっぱりどこか張り詰めていた。
通りを行き交う人々の表情はどこか固く、商人たちは笑顔を浮かべつつも、目が泳いでいる。
「何かが……変わってるわ」
「うん、私もそう思う」
街角で囁かれる言葉。
「最近また、“騎士団の動き”が増えたな……」
「城下町で“禁呪の痕跡”が出たって、本当かよ……?」
――わたくしたちが知らぬ間に、この街は確実に“何か”に蝕まれていた。
「リディア。ここから、どう動く?」
「まずは情報収集よ。噂、魔導学院、そして……」
わたくしは、ひとりの名前を思い浮かべる。
「“ルーファス”の動向も、気になるわね」
元・婚約者。
王都最強の若き騎士。
あの日、何も言わずに“わたくし”を切り捨てた人。
……でも、なぜか、思い出すと胸が苦しくなる。
あの深い蒼の瞳。
訓練場で、背中を預け合った日のこと。
誰よりも近くにいたのに、心が一番遠かった――そんな記憶。
「会って、どうするの?」
「……何も。
ただ、“今のわたくし”を、あの人に見せたいだけよ」
「……そっか」
セリアはそれ以上、何も言わなかった。
でも隣にいてくれるだけで、十分だった。
わたくしたちは、ひとつの目的に向かって歩き出す。
“この王都に、風を起こすために。”
そしてその先に――
恋かもしれないものと、再会が待っているのなら。
「……ふふ。悪くない展開ですわね」
“悪役令嬢”の王都再潜入、開幕――!




