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『悪役令嬢、最強魔導師として無双します』〜追放されたけどチートスキルで王国も恋もぜんぶ救ってみせますわ〜  作者: のびろう。
第5章『闇より目覚めし王に挑む』

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エピローグ 赤き夜、そして愛を知る

王都は、静かに息を吹き返していた。


崩れかけた街並みには修復の音が響き、倒れた塔の影には、再び人々の笑顔が差し始める。

黒き瘴気が消えた空は、深紅の夕日に染まり、まるで“血と祈り”を受け入れたかのように、優しく包んでいた。


「……ようやく、終わったのですね」


わたくしは、白い布をきつく結びながら、横たわる彼の腕にそっと触れる。


「痛みますか?」


「……いや。もう、お前の顔が見えるだけで、だいぶマシになった」


そう言ってルーファスは、唇の端をかすかに持ち上げた。


無骨で、照れくさそうな笑み。


けれど、それがどれほどわたくしの胸を締めつけたか――彼には、たぶん伝わっていない。


「あなたは……本当に、無茶ばかりする方ですのね」


「……ああ。バカだ」


「そんなに簡単に認めないでくださいまし」


「でも――お前を、守りたかった。今度こそ、全部を……」


その言葉に、わたくしは思わず目を逸らした。


「……わたくしだって、同じです」


「え?」


「あなたを守りたいと思うのは、わたくしも……同じなのですわ」


照れて、なのか。

あるいは、ようやく口にできた安堵か。

彼は瞳を伏せたまま、黙って、わたくしの手を握った。


――その手の温もりは、傷だらけで、不器用で。

けれど確かに、誰かを大切にしようとする強さを持っていた。


「ルーファス」


「……ああ」


「生きて、くれてありがとう」


「……お前がいたから、生きて帰れた。そういうことだ」


もう、言葉は必要なかった。

静かに、重なった手のひらだけが、夜風に溶けていった――


* * *


「おやおや、なんてロマンティックな光景でしょうか」


唐突に響いた皮肉混じりの声に、二人してビクッと肩を揺らす。


「……アレン様」


「まさかねぇ、世界を救った英雄様が、こんな薄暗い裏庭でいちゃついてるとは思わなかったよ。

ぼく、涙が出ちゃいそうです。感動して」


「わざわざ裏庭まで探して来た方が言うことではありませんわね」


「それだけ心配だったってことだよ? リディア」


わたくしの目の前に、アレンがしゃがみこむ。

銀の髪に夕陽がかかり、まるで狐のような光を放っていた。


「……さて、そろそろ聞こうかな? どちらを選ぶのか」


「……はい?」


「騎士様は“命がけで守る”、ぼくは“心を守る”。どっちがいい?」


「わたくしは……そういうの、まだ……」


「悩んでるうちにさらわれるよ?」


「なっ……!?」


「ルーファスはわかってない。リディアは“世界の希望”になった。

これから先、いろんな人間が近づいてくるよ。利用する気で、好意を装ってね」


アレンの声は静かで、でもどこか切実だった。


「だから――俺にしとけ、なんてことは言わない。

けどね、ぼくは、お前が泣くのをこれ以上見たくない。

……そう思ってる奴が、ここにもう一人いるってことは、覚えておいて」


彼の金の瞳が、わたくしを射抜いた。


「それだけ伝えに来たんだ。じゃ、またね」


そう言って、アレンは立ち去る。


背中は軽やかで、冗談のように手を振っていたけれど――

その指先は、ほんの少し震えていたように見えた。


「……リディア」


ルーファスの声が、わたくしの迷いを呼び戻す。


「俺には、何も持っていない。

……お前を囲むほどの力も、未来も、肩書きも」


「ルーファス……」


「けど、ただ一つだけ、約束する。

お前が、誰より幸せでいられるように、命をかける。

その覚悟なら……俺だって、誰にも負けない」


言葉が、胸にしみた。


(なぜこんなに……わたくしは“選ばれる”ことに、臆病なのかしら)


誰かを選ぶことは、誰かを傷つけることになる。

そう分かっているから――

わたくしの心はまだ、はっきりと、何かを言えずにいる。


けれど、


「もう少しだけ、待っていただけますか?」


「……ああ」


「今はまだ、わたくし自身が、わたくしを信じきれていませんの」


その代わりに、わたくしはルーファスの手にそっと額を寄せた。


その距離が、今のわたくしの“答え”。


「……生きて、くれてありがとう」


「何度でも言うよ。お前のためなら、何度でも生きる」


紅に染まる王都の空は、いつしか、静かな星を灯していた。

それはまるで、願いが確かに届いた証のように――


ーーーーーーーー


「わぁ……すっごく、いい匂い……!」


湯気の中、セリアがぽわんと頬を染めて笑った。


ここは、王都再建の慰労として開かれた仮設の大浴場――といっても、精霊が浄化した水を使った神聖な湯船だ。

癒しの効果が高く、戦後の治療にも使われている。


「んー……リディアの背中、もっとこっち向いて?」


「ちょっ……セ、セリア、もう少し距離を……!」


「えへへ、大丈夫。裸の付き合いってやつだよ~」


「どこの江戸精神ですのそれは……っ」


背中に触れる指が、ゆっくりと優しくなぞる。


そのたびに、湯気以上に心が熱くなっていくのがわかる。

彼女の指は、何かを探すように、愛おしむように――迷いがなくて、まっすぐで。


「……リディア。怖かった?」


「……ええ。とても。わたくしの力も……心も、何度も壊れかけましたわ」


「でも、生きてくれた」


「……あなたが、そばにいてくれたから」


ぽつりと呟くと、ふわりと髪を撫でられた。


「リディアは強いよ。でも、泣いていいときもあるんだよ?」


「……泣きたくなど、ありませんわ」


「じゃあ……甘えて?」


「……え?」


「ねえ、今日は……リディアの心を、わたしだけのものにしてもいい?」


「っ……セリア、それは……!」


真剣な目を、逸らすことができなかった。


そして――

次の瞬間、セリアの唇が、わたくしの肩にそっと触れた。


柔らかくて、優しくて、ほんの少し震えていて。

でも、確かに“好き”がこもっていた。


「セリア……?」


「ごめん。だめだったら、止めてね」


「……だめじゃ、ありませんわ」


本当は、もっと拒絶すべきなのかもしれない。

でも、わたくしの心は、あまりにも自然に、そのぬくもりを受け入れていた。


――誰かに抱きしめられることが、こんなにも安心するなんて。


「……リディアの肌、雪みたいに綺麗」


「……褒めても、何も出ませんわよ」


「じゃあ、ぎゅってしてもいい?」


「……すでに抱きついてますわ」


「えへへ、追加で♡」


(甘すぎますわこの子……!)


肩越しに見える彼女のまつ毛が、濡れて光っていた。

まるで、湯けむりの精霊が舞い降りたように幻想的で。


「リディア……わたしね、ずっと思ってた。

“この手で、あなたを守れるようになりたい”って」


「セリア……」


「恋とか愛とか、よくわかんないけど。

でも、リディアが誰かに取られるのは、きっと……泣いちゃうくらい、嫌だなって思う」


抱きしめる腕が、ぎゅっと力を込めた。


わたくしは、反射的に彼女の髪を撫で返す。


「……あなたは、わたくしの大切な人です」


「わたしも」


「だから――焦らないで」


「うん。でも……もうちょっとだけ、こうしてていい?」


「……いいですわ」


そうしてわたくしたちは、湯けむりの中で寄り添った。


心と心が、静かにふれあう音だけが、微かに響いていた。


* * *


その夜、わたくしの夢には、白い門と、銀の瞳の少女が現れた。


「……彼の“封印”が、開き始めている」


凛とした声が、時の狭間から響く。


「貴女がその運命を越えられるか――私たちは、それを見届けましょう」


目覚めたときには、胸の奥に、名状しがたい不安と確信が残っていた。


“次は、もっと深く、過去と向き合う戦いになる”――


それでも、わたくしはもう、独りではない。


彼らと共に進む。

この心を、信じて。


新たな戦いの幕が、いま、静かに上がろうとしていた――

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