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『悪役令嬢、最強魔導師として無双します』〜追放されたけどチートスキルで王国も恋もぜんぶ救ってみせますわ〜  作者: のびろう。
第4章『聖女と悪役令嬢、禁断の精霊契約』

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「帰還と、新たなる騎士団」

――光の渦の中を、落ちていく感覚だった。


わたくしたち三人は、精霊界の最深でフィルグレアとの契約を果たし、再びこの世界へ戻ってきた。


「……ここ、は……」


わたくしが目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。


王都の“聖域”――精霊祝祭に使われる、神聖な神殿の一室だった。


セリアが隣でわたくしの手を握ったまま眠っている。反対側には、ルーファスの腕がわたくしを庇うように伸びていて、彼もまたぐっすりと眠っていた。


「ふふ……安心しすぎよ、あなたたち……」


わたくしは微笑んで、そっと指を絡めた。


……夢ではない。


確かにあのとき、“願い”を伝えた。心を見せ合い、絆を結んだ。


――だから、戻ってこられた。


そう信じた瞬間、部屋の空気がふわりと揺れた。


「……リディア」


その声は、風と光が溶け合ったように透き通っていて、けれど、どこか懐かしい響きを含んでいた。


「……フィーネ?」


「うんっ!」


空間がきらめき、光の粒が集まり、やがて少女の姿を象った。


虹色に揺れる銀髪。七色の瞳。そして、いたずらっぽく笑うその表情。


「フィーネ……!」


わたくしは思わず抱きついた。あたたかい――ちゃんと、戻ってきたのだ。


「ごめんね、リディア。あのとき守れなかったこと、ずっと後悔してた。でも、あなたの願いが、わたしを引き戻してくれたの」


「もう……何も言わないで。あなたが帰ってきてくれた、それだけで……」


フィーネの体温が、涙を誘った。


わたくしは今、確かに“帰ってきた”のだ。


世界の終わりを越えて、“わたくし自身”として。


セリアが目を覚ました。


「……フィーネ……! 本当に……!」


「ただいま、セリア。ずっと見てたよ。あなたたちがくれた言葉も、想いも……全部、届いてた」


ルーファスも瞼を開けて、すぐにフィーネの存在に気づいたようだった。


「……精霊が、実体を伴って……これは、完全なる再契約……?」


「うん。わたしは、もう一度リディアと心を結んだの。精霊王との契約が、その道を開いてくれたのよ」


フィーネが嬉しそうに笑い、わたしの肩に頬をすり寄せる。


「リディアは、やっぱり“選ばれた人間”だったんだね」


「違うわ。ただ……誰かのために、祈りたいと思っただけよ」


わたくしがそう言うと、扉が静かに開かれた。


中に入ってきたのは、王都魔導会議の筆頭であり、現王の信任厚き実務家――アシュレイ・モルドンだった。


「ご無事で何よりです、アルヴェイン嬢」


「……わたくしはもう、そう名乗るつもりはありません」


「では――リディア・アルヴェイン、《精霊契約者》としてお迎えします」


アシュレイは恭しく頭を垂れ、さらに続けた。


「王命により、あなたを“精霊騎士団”の長に任命いたします。新たなる脅威に対抗しうる者――世界の灯火として」


その言葉は、重く、けれど……わたくしの胸を震わせた。


「……精霊騎士団、ですの?」


「はい。王都を護るため、精霊との共闘を前提とした精鋭部隊。あなたをその象徴とし、創設されました」


わたくしはフィーネと目を合わせる。


「どうする? リディア」


「――引き受けましょう。これは、わたくしたちの“居場所”を守るための戦いだから」


わたくしは静かに立ち上がり、ルーファスに向き直った。


「副団長には、あなたを任命したいのだけれど?」


「……いいのか?」


「当然でしょう? この道を、共に歩むと決めたのだから」


ルーファスの瞳が、一瞬だけ揺れた気がした。だが、次の瞬間には真っすぐ頷く。


「……承知した。俺は、お前の剣になる」


「頼りにしてるわ。あなたの、優しさも、強さも」


セリアがぱちぱちと拍手した。


「わたしは……団の“癒し担当”ってことで!」


「ふふ……それ、重要ね。特にルーファスには」


「なんだと」


そんなやりとりに、フィーネがくすくすと笑った。


「大丈夫。わたしがついてる限り、きっとどんな困難も乗り越えられるよ」


「ええ。わたくしたちはもう、一人じゃないから」


その瞬間――空が、再びざわめいた。


“瘴気”――だが、それはこれまでのものとは違う。


まるで、意志を持ってこちらを見据えるような、明確な“敵意”の気配。


そして響く、不気味な“声”。


《ようやく……扉が開かれる。我が“王”の眠りを妨げた者たちよ――》


わたくしの紅霞の瞳が、空を捉える。


「来るわ……“真なる魔王”が――」


それでも、わたくしは恐れなかった。


「わたくしの手は、誰かのためにあるのなら」


精霊の力と、仲間の絆を携えて。


わたくしは“魔導騎士団団長”として、歩き出す。


“世界を救う”その瞬間に向かって――。


ーーーーーーー


わたくしが団長として歩み出そうとしたその瞬間、神殿の扉がふたたび開かれた。


響く足音は、何かをかき乱すような静けさを孕んでいる。ゆったりと、しかしすべてを見透かすかのような優雅な気配――その主を、わたくしの心はすぐに察した。


「ずいぶんと眩しくなったな、リディア嬢」


その声――甘く響き、どこか皮肉めいて、そして抗えない魅力を含む声。


「……アレン王子」


神聖な空間に、王子の白銀の髪が光をはね返すように揺れた。金の狐眼が、まっすぐにわたくしを射抜いている。微笑みはいつものように柔らかく、けれどどこか“寂しさ”を含んでいた。


「おや、そんなに警戒しなくてもいいだろう? 僕がここへ来た理由は、剣でも陰謀でもない」


「なら、何のために?」


「――君を迎えに来た。いや、違うな……“お願い”に来たんだよ」


「……お願い?」


アレンはゆっくりと歩み寄る。背後でルーファスの気配が硬直するのを感じる。けれど、彼は剣を抜かなかった。わたくしの意思に、すべてを委ねると決めてくれたのだろう。


「リディア。君は今や、この王国で最も“世界に触れた者”だ。精霊王との契約を成し遂げたその存在は、もはや一国の枠では語れない。だからこそ――僕は君に問いたい」


彼の手が、わたくしの指先へと伸びる。


「“世界を救う”つもりはあるかい?」


その問いに、わたくしの胸が小さく脈打つ。


「……また、そうやって。わたくしを試すようなことを言って」


「違うよ。これは試練でも計算でもない。……願いだ」


アレンの金の瞳が、ふと翳りを帯びる。


「君のその力と在り方が、王都だけでなく、全世界を変えうる鍵になる。……それを理解している者は、僕を含めてそう多くはない」


「……あなたは、わたくしをどうしたいの?」


「“君の物語を、君の手で終わらせないでほしい”」


その言葉に、わたくしは一瞬、息を呑んだ。


まるで、わたくしの“弱さ”を見透かされたようだった。


「……わたくしは、まだ誰の手も、きっとちゃんとは握れていない」


「なら握ればいい。僕の手でもいい、ルーファスの手でもいい、セリアの手でも。けれど、その手が誰かとつながるなら……」


アレンの声は、珍しく熱を帯びていた。


「“君”はもう、独りきりじゃない」


「……あなたは、本当にずるいわ。そうやって誰より先に、わたくしの心を見抜く」


アレンは静かに笑った。


「ずるいのは、君だよ。こんなにも美しくなって……僕の中の“好き”を揺らすなんて」


「っ……」


ふいに頬が熱を帯びた。


横でセリアがむぅっとした顔で睨み、ルーファスの目が明らかに刺すような冷気を放っている。


「あの……王子、リディアは今、団長としての責務を――!」


「わかってるとも。だからこそ、“いずれ”に備えて言っておきたかっただけさ」


アレンはくるりと踵を返し、扉の向こうへと歩き出す。


「君を好きでいる資格が、僕にないとわかっていても――“君の選ぶ未来”に、僕も触れたいと思ってしまうんだ」


去り際、振り返りもせずそう告げた彼の姿は、妙に脆く、でもどこか温かかった。


扉が静かに閉じられ、沈黙が訪れる。


わたくしの胸には、言葉にできない想いが残っていた。


セリアがそっと袖を引く。


「リディアは……どうするの?」


「わたくしは、選ぶわ。自分の心で。けれど……もう独りじゃない」


ルーファスが無言のまま近づき、わたくしの手をとった。


その大きく温かな手は、何も言わず、ただ“側にいる”と告げてくれていた。


フィーネがふわりと微笑んだ。


「みんなが、リディアの居場所になるよ」


そうね。わたくしには、もう帰る場所がある。


それが“騎士団”であっても、“恋心”であっても。


――わたくしは、きっと、見つけたのだ。


“居場所”を。

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