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『悪役令嬢、最強魔導師として無双します』〜追放されたけどチートスキルで王国も恋もぜんぶ救ってみせますわ〜  作者: のびろう。
第4章『聖女と悪役令嬢、禁断の精霊契約』

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「わたくしだけの願い、あなたに届くなら」

風が、頬を撫でるように通り抜けた。


あたたかく、やさしく、けれどどこか、哀しみを含んだ風だった。


「――戻ってきた、のね……」


精霊界から帰還した瞬間、胸の奥が不思議と空っぽだった。


感情を使い果たしたような、けれどその余白に、何かが静かに満ちていくような――そんな、やわらかな気配。


隣にはセリアがいた。わたくしの手を、まだぎゅっと握っている。


「大丈夫? リディア……」


「ええ。……でも、ちょっと怖いの。自分が、“幸せになりたい”って口にしてしまったことが」


「どうして……? それって、当たり前の気持ちじゃない?」


「――当たり前、かしら」


わたくしは空を見上げる。どこまでも蒼く、雲一つない王都の空。


「幸せって、誰かのものを奪ってはいけないとか、わたくしが欲しがるには相応しくないとか……そう思っていたの。ずっと」


セリアが眉を下げ、手をぎゅっと強く握った。


「リディアは、優しすぎるから」


「優しいだけじゃ、誰も救えないもの。わたくし……何もできなかった。誰の手も、取れなかった……」


そう呟いた瞬間、ふと背後から声が聞こえた。


「だったら今、取ればいい」


その声に、わたくしの胸が跳ねた。


「……ルーファス」


「お前はずっと、誰かを守ろうとしてきた。なら、今度は誰かに守られてみてもいいんじゃないか?」


寡黙で、不器用な男。


でも、彼の言葉はいつだって、まっすぐで。


「……わたくしの手を、取ってくれるの?」


「当たり前だろ。あのとき……手を離したのは、俺だから」


「……あれは、あなたのせいじゃないわ。わたくしが……」


「それでも後悔してる。だから、今は……もう一度、お前の傍にいたい」


そう言って差し出された手は、大きくて、あたたかかった。


わたくしは、恐る恐る――けれど、そっと指先を重ねた。


「……ねえ、リディア」


セリアが、ぽつりと口を開く。


「願いが叶うなら、何を願う?」


「……わたくしは、ただ、“わたくしでありたい”」


言葉にしてみると、それはひどく単純で、でも――誰より難しかった。


「誰かの娘でも、婚約者でも、役目でもなく……ただの“リディア”として、笑っていたいの」


セリアの瞳が潤む。


「それって……すごく、素敵な願いだと思う」


「ほんとう?」


「うん。だってわたし、“リディア”が好きだもん」


「セリア……」


わたくしたちは笑い合った。


それだけで、ほんの少しだけ、“わたくし”という存在がこの世界にいていいのだと、思えた気がした。


けれど――その余韻を裂くように、空が震えた。


大地が、鳴いた。


「……何、この感じ……?」


「魔力の揺らぎ……? でも、これは……!」


ルーファスが即座に剣の柄に手をかけた。


「来る……っ、何かが!」


次の瞬間、王都の東方から吹き荒れる黒風。


“瘴気”――魔族のもたらす死の風だった。


「なんで……もう封印されたはずじゃ……」


「違う、これは……“何か”が目覚めようとしている……!」


わたくしの紅霞の瞳が、遥か上空――王都の聖堂塔を捉える。


あの場所に、何かが、いる。


「わたくし……もう、逃げない。わたくしの願いは……誰かと一緒に、生きていくこと」


それは、戦いを拒むことではない。


“わたくしでいる”ために、わたくしは剣を取る。魔法を編む。


「ルーファス、セリア――行きましょう。わたくしたちの未来を、選びに」


「……了解だ。リディア、お前が行くなら俺は従う」


「もちろん、わたしも!」


――そうして、わたしたちは走り出した。


心に灯った“わたくしだけの願い”を、今度こそ信じて。


それが、誰かに届くなら。


それが、わたしの、わたくしたちの――生きる証になるのだから。

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