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『悪役令嬢、最強魔導師として無双します』〜追放されたけどチートスキルで王国も恋もぜんぶ救ってみせますわ〜  作者: のびろう。
第3章『裏切りと祈りのティアラ――もう一度、あなたを信じてもいいですか?』
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わたくしを試さないで

「……まったく、なんでまた“あの舞台”に立たなきゃいけないのかしら」


ドレッサーの前で、ため息をひとつ。鏡の中のわたくしは、真紅と白銀の精霊装に身を包み、どこか遠い目をしていた。


“精霊祝祭”。


王都最大の霊儀のひとつ。街中が浮かれ、神殿では精霊たちへの感謝と祈りが捧げられる盛大な祭典。

そして今年、なぜか突然、“精霊騎士代表”としてリディア・アルヴェインが選ばれた。


──つまり、わたくし。


「完全に裏がありますわよね、これ」


「リディア、もうちょっとだけ、口元ゆるめて〜?」


フィーネが空中でくるくる回りながら、無邪気に笑う。


「だってせっかく可愛いドレス着てるんだし、仏頂面だともったいないよ〜。はい、“精霊の微笑”〜!」


「……精霊って、もっと荘厳な存在じゃなかったかしら?」


「ぴぴー、わたしはリディアの精霊だもん。リディアが怒ってたら、一緒に怒るし、拗ねてたら、抱きつくしっ」


「……子犬か何かですの?」


にこにこしながら抱きついてくるフィーネを軽く抱きしめつつ、わたくしは深く息を吐いた。


「……行きましょう。罠でも、舞台でも、“演じ切る”のが悪役令嬢の務めですわ」



王都の中央広場。万の人々が集い、花びらが宙に舞う。

その中心、白亜の神殿前に設けられた黄金の階段を、わたくしは一歩一歩、上っていく。


頭上には、七色の光に満ちた精霊の冠。


その手前で、わたくしは足を止めた。


「……我が名はリディア・アルヴェイン。かつて罪に問われ、いま再び、精霊に祈る者――」


深紅のドレスが風に舞う。観客席のざわめきが、息を呑んだように静まり返る。


そして――


バンッ!


「……っ!?」


突如として、魔導式の爆音。視界に閃光が走る。

神殿裏手で、封印結界が破られたような異変が生じ、空気が震えた。


「何者かが侵入――ッ!精霊の冠が……!」


「避けてください、リディア様!」


わたくしを庇って飛び込んできたのは――黒の騎士装。


「ルーファス……!」


一瞬、世界が止まったように感じた。

彼の背は、わたくしを包む盾のように前に出て、蒼い剣の柄を強く握る。


「……あなた、まだ“騎士”を名乗るつもりなのね」


「君の前では、たとえ地位を失っても、剣を抜く理由がある」


彼の眼差しは真摯で、誤魔化しがなかった。

でも――なぜでしょう。近すぎて、遠く感じるのは。


「……わたくしはもう、“守られるだけの娘”ではありませんわ」


「知ってる。でも、俺は……君の背中を預かりたい。せめて、それくらいは……」


わたくしが何か返す前に、背後からふっと風が吹いた。


「まあまあ、お二人とも。観客が見てますよ。惚気はあとでお願いしますね?」


その声は、やけに甘く、どこか皮肉めいていた。


「……また、現れたのですのね」


白銀の髪に、金の仮面。アレン・レイヴァント王子。

笑みをたたえたその瞳は、どこまでも本心を見せない。


「仮面舞踏会以来ですね。今日も美しい。リディア嬢。いや――紅き精霊騎士殿?」


「皮肉がお好きなようで。ならば、“貴方の仮面”も、さぞ磨かれていらっしゃるのでしょうね?」


「……そう言われると、もっと脱ぎたくなりますね」


「……その発言、問題ですわよ?」


「問題児なもので」


まったく、彼との会話は常に綱渡りだ。けれど――嫌いじゃない。この緊張と、遊びの境界線。


「ところで、リディア嬢。今日の騒ぎ、貴女に向けたものかもしれませんよ」


「……貴方は、知っていたのですか?」


「“知っていた”というより、“感じていた”のです。誰かが、貴女を“試そう”としていると」


その瞬間、言葉が喉で止まった。


“試す”。


――わたくしは、まだ「信じてもらえる存在」ではないのだと。


まだ、「選ばれていない」のだと。


「……ならば、答えてみせましょう」


わたくしは静かに、右手を掲げた。

赤と金の光が溢れ、魔導陣が空中に咲く。


「試すのは、そちらの勝手。でも、“わたくしの力”を侮ってはなりませんわ」



その日、結界の修復と共に、魔障の汚染源が浄化された。


リディア・アルヴェイン。

紅き精霊騎士は、危機の只中において再び、その力を示した。


だが、王都の奥底では――別の“歯車”が回り始めていた。


「“彼女”は、こちらの掌の中よ」


黒衣の令嬢が、笑っていた。


そして、その言葉を“誰か”が見つめていた。


金の仮面の奥、アレンの瞳が、ふと――笑みを消したのを、わたくしはまだ知らない。

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