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『悪役令嬢、最強魔導師として無双します』〜追放されたけどチートスキルで王国も恋もぜんぶ救ってみせますわ〜  作者: のびろう。
第3章『裏切りと祈りのティアラ――もう一度、あなたを信じてもいいですか?』

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ひび割れた冠

「――わたくしの実家から、“面会希望”ですって?」


その報せを聞いたとき、わたくしは紅茶を吹き出しそうになった。優雅さ? どこかへ消えましたわよ。


アルヴェイン公爵家。名門中の名門。魔導と軍事の両面において、王国の中枢を担ってきた家系。

そして、わたくし――リディア・アルヴェインを、“悪役令嬢”として断罪し、王都から追放した家。


「今さら、どの面を下げて?」


口元に笑みを浮かべながらも、胸の奥では静かに波が立っていた。

驚きと戸惑いと、ほんの少しの――怒り。そして、もっと厄介な感情。たとえば、“期待”とか。


「……まさか、泣いてすがってきたりなんてしませんわよね?」


そんな都合のいい展開、乙女ゲームでも見たことありませんわ。



「リディア、顔が怖いよ……?」


「これは、“気高き貴婦人の微笑”ですわ。恐れ多くも、貴女に理解できるとは思っておりませんでしたけれど」


「えっへへ、ごめんね。でもさ、怖くても、会うんだよね?」


「ええ。逃げても、何も終わりませんもの」


セリアの瞳は、いつもまっすぐ。だからこそ、見透かされそうで――つい強がってしまう。


「ふぃーん」


そこへ、フィーネがぷかぷかと空中に現れた。虹色の銀髪に、七色の瞳。大精霊フィリメリアの、無邪気な姿。


「リディア、やだよぉ。行きたくない。あの場所、嫌なにおいするもん。腐ってる、きしんでる、割れてる……」


「……やっぱり、そうなのね」


フィーネは、言葉で“気配”を読む。人の心の濁りや場の霊的な異常を、嗅ぎ分ける精霊の力。


「精霊って、すごいよね……人の嘘、わかっちゃうんだもん」


「人の嘘よりも、自分の弱さのほうが、怖いですわよ」


わたくしはふっと笑って、背筋を伸ばした。

この足で、“あの場所”にもう一度、立つと決めたのだから。



迎えの馬車は、公爵家の紋章が燦然と掲げられていた。白銀の双頭鷲――誇り高く、冷たく、かつてはわたくしの盾だったはずの、象徴。


門が開く。

かつて通い慣れた、だが今は異邦のように思える石畳。整然と刈り込まれた庭園。まるで傷ひとつない仮面のような、完璧な城館。


「リディア様……」


執事たちが頭を下げた。その声に、どこかの誰かの“後ろめたさ”が滲んでいた。わたくしはあえて、微笑む。


「ごきげんよう。わたくしを追放した館へ、ようこそわたくし」



客間に通され、しばらくののち――扉が開いた。


「……リディア」


「お母様。お父様。ご無沙汰しておりますわ」


母は変わらず美しく、父は変わらず威厳に満ちていた。

完璧な貴族の夫婦。感情は見せず、感傷も、決して取り戻さない。


そのはず、だった。


「……許してくれとは言わん。ただ、あのとき――間違っていたとは思っている」


父の言葉は、石像のように重かった。


母はわたくしを見つめ、ほんの少し唇を震わせた。


「あなたのことを、誤解していたと……気づいたのよ。王都を救った、あの日。あなたがどれほど強くて、優しい娘だったか」


「…………」


心臓が、変な音を立てた。息が、浅くなる。


……ずるいわ。こんな言葉、欲しかったに決まっているのに。


「……そう、ですの」


けれど、それは“演技”だと、精霊は囁いた。


『心の奥では、あなたの力が欲しいと叫んでいる』と。


『“娘”としてでなく、“道具”として見ている部分がある』と。


「……リディア」


「はい?」


「近く、王族主催の“精霊冠の儀”が開かれる。そこで……お前に、アルヴェインの名を掲げてほしいのだ」


「――……」


「お前が冠を戴けば、王家はわが家の復権を認めざるを得ない。お前の名声を、“家の力”として借りたいのだ」


……わたくしの中で、何かが冷たく結晶になった。


「――まるで、舞踏会のときのようですわね」


「なに?」


「着飾った令嬢を“見世物”にして、誰の妻にふさわしいか、王族の前で競わせる……。

お父様、お母様。変わってなどおられませんわね。仮面だけ、美しい仮面だけ、取り替えて」


母の顔がわずかに歪んだ。


父の瞳から、温度が消えた。


「残念ですわ。わたくしはもう、あの頃の子どもではありませんの」



その日の帰り道、フィーネが肩にちょこんと乗ってきた。


「リディア、泣いていいのに。いまだけ、誰も見てないよ?」


「泣きませんわ。わたくしは、アルヴェイン家の冠を脱ぎ捨てて――この足で、立っているのですもの」


空を見上げると、雲の合間に、紅が差していた。


ひび割れた冠は、もう要らない。


代わりに、わたくしの頭上には、紅霞と光のティアラがある。


“英雄”でも、“悪役令嬢”でもいい。


わたくしの物語を紡ぐのは――わたくし自身なのだから。

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