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王都炎上、覚醒する美しき魔女

王都の空が、赤く染まった。

それは夕暮れの光ではない。

燃え上がる魔の炎――瘴気にまみれた黒い火柱。


「魔族……っ、ここまで入り込んでたなんて……!」


セリアが震える声で叫ぶ。


「陛下は!?」「第一騎士団は応戦中です!」


「西門壊れました! 魔族、広場へ侵入中!」


次々に響く絶望の報告。

騎士たちの陣形は崩れ、市民は逃げ惑い、

街は――もはや、戦場だった。


でも。


わたくしは、その中心に“立つ”。


「フィーネ。準備は?」


「もちろん!」


わたくしの肩に乗った虹色の髪の精霊は、きらきらと笑う。

その瞳は、まるで無数の魔法陣をそのまま宿しているかのように輝いていた。


「リディア、魔素圧縮完了! いけるよ、いつでも!」


「ええ。では、“魔導師として”――名乗らせてもらいますわ」


足元に展開されるのは、五重式・円環陣。

《アルカ・コード》が全開で回転を始め、古代文字が空中に連なってゆく。


「リディア、これ……!」


セリアが見上げる先で、巨大な“紅紫の蝶”が空を舞う。

それは魔導の象徴。

美しく、恐ろしく、そして――自由の象徴。



「皆さん、避難を」


リディア・アルヴェインが、ドレスの裾を翻しながら、王都中央広場に降り立った。


その姿を見た市民たちは、息を呑んだ。


“断罪されたはずの悪役令嬢”。

いま、燃えさかる街の中心で、堂々と微笑んでいる。


「あなたたちが追放したのは、ただの“令嬢”ではありません。

 ――魔導師ですの」


《氷鎖双龍・爆裂連結》

《雷刃障壁・一斉展開》

《風紋断層・位相転移》!


三系統同時展開。

魔導の常識を覆す超高密度魔法を、同時に手のひらから放つ。


凍てつく鎖が、空を這う魔族を地面に叩き落とし、

雷の壁が群れを分断し、

風の刃が“見えない次元”ごと切り裂く。


「すごい……!」


「誰だ、あの魔導師……!?」


「まさか、“紅霞の魔女”……!」


群衆の中に囁きが走る。

いつのまにか、人々は彼女の名を呟き始めていた。


「名前は――リディア。

 もう一度、よく覚えておいてくださいな?」


その声に、魔族が唸りを上げる。


数十体が一斉に飛びかかってくる。

だが、すでにそれは“想定内”。


「フィーネ、今!」


「いっけぇーーーっ☆!」


フィーネが両手を掲げると、彼女の背後に無数の精霊陣が顕現する。


《精霊展開:星雨の大矢》

《契約者解放:三重律動加護》


――それは、空から降る希望の光。


星のような輝きが、魔族たちを次々と貫いていく。


「すっごいよリディア! 私たち、ほんとに最強のコンビだねっ!」


「ええ、わたくしもそう思うわ。……今夜だけは、認めてあげる」


「やったー!」



そして、別の場所――。


セリアは、中央広場から少し離れた避難区画で、

必死に“治癒”と“保護結界”を展開していた。


「回復魔法《聖風の抱擁》! お願い、間に合って……!」


傷ついた少年の体に、柔らかな光が差す。

一筋の涙が、その頬を滑った。


「ありがとう、お姉ちゃん……」


「……よかった……!」


けれど、セリアの魔力は限界に近づいていた。

それでも彼女は立ち続けた。


「私は……リディアに、守られてばかりじゃ……いや」


ぎゅっと胸元のペンダントを握る。


「わたしも、“誰かを守るヒロイン”になりたいんだ」


精霊のように光る魔法陣が、セリアの足元に咲いた。


――その力は、ただの癒しではなかった。



「セリアの魔力が……!?」


リディアの視線が、遠くで輝く癒しの光を捉えた。


「彼女、やるわね……!」


「うん! リディアとセリア、最強バディーだもん!」


フィーネが嬉しそうに胸を張る。


リディアは、最後の魔族の咆哮を見据えた。


「まとめて、吹き飛びなさい!」


《最終詠唱――アルカ・コード・完全展開》

《魔導最終陣:紅霞永久結界・崩光エンド・オブ・レクイエム


魔導陣が王都を包む。


光が炸裂した。


一切の瘴気が浄化され、魔族の絶叫が風に消える。



戦いが終わったあと。


焼け落ちた広場の中心に、彼女は静かに立っていた。


紅と銀の髪を風に揺らし、仮面も、仮の名も脱ぎ捨てた姿。


「……リディア・アルヴェインですわ。

 追放された令嬢ではなく、

 この王国を救った“魔導師”として、記録なさい」


誰かが、手を叩いた。

一人、また一人。


やがて、王都中が彼女の名を呼び始める。


“救世の魔女”

“紅霞の令嬢”

“傾国の英雄”


でも――。


「……ふふ、結局みんな、名ばかり気にするのね」


わたくしは、微笑んだ。


わたくしがなにかを“救った”のだとしても、

それはこの手に触れた“誰かの想い”に、答えたかったから。


「……ありがとう、セリア。フィーネ。あなたたちがいたから、わたくしは――」


そのとき、背後から誰かが近づいてきた。


「おめでとう。君の勝利だ。……“魔女”」


仮面はつけていなかった。

けれど、目は覚えていた。


「……アレン・レイヴァント」


彼は、わたくしを見つめて言った。


「世界が君を選んだなら、僕はその結末に賭けてみよう」


「……その代償が、“君”じゃないことを祈るわ」


ふたりの視線が、交差する。


仮面の夜は明け、

ここからは――真実の物語が始まる。

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