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しばらくエレオノーラと微笑み合っていたアルフレードは、横から聞こえてきた咳払いにため息をつきつつファルロスに視線を投げる。


「ファルロス殿下、そろそろ本題を話されたらどうです?エレオノーラが目覚めた時に殿下から話したいと毎回しつこく付いてきていたのでしょう?」

「おっそうだったな。エレオノーラ嬢、今回の事件の全容が確認出来たんだが聞くか?もしまだ体調が優れなければ無理にとは言わない」


アルフレードの棒読み話題振りとチクチク言葉のコンボを華麗にスルーして、ファルロスはエレオノーラに問いかける。

ファルロスの言葉を聞いたエレオノーラは、ドクンドクンと自分の鼓動が早くなったのを感じた。


(あの日のことは・・・正直思い出したくない・・・)


目の前で殴られた従者の顔、ミスティーアの泣き顔、自分を犯そうとする男の顔、向けられる不快な視線・・・全てが脳裏にこびり付き、思い出そうとしなくてもふとした時にエレオノーラの頭に浮かんできていた。

ファルロスへの返事を考えるほどエレオノーラの顔はどんどん白くなり、なんと答えるべきか分からないまま俯いて口を開いた。


「わっ私は・・・」


エレオノーラが声を振りしぼっていると、突然エレオノーラの手が強く握られる。

その感触にぱっと顔を上げると、心配そうな顔をしたアルフレードがエレオノーラを見つめていた。


「無理はしなくていいよ。思い出したくないことを無理に思い出さなくていい。エレオノーラが知らなければいけないことでもない」

「そうだぞ。知っておきたいかもしれないという私のお節介だから、無理をして聞く必要は無い」


エレオノーラの意志を尊重すると言う2人の言葉に、エレオノーラの顔色はだんだんと戻りだした。

エレオノーラは呼吸を整えるように深呼吸をしてアルフレードの手を握り返すとファルロスに頭を下げる。


「自分の関わったことです。教えていただけるならお願いしてもよろしいでしょうか」

「だから、そんなに頭を下げるなと・・・」

「あっその前に・・・」


一つずっと気がかりだったことを思い出したエレオノーラはぱっと顔を上げてアルフレードに確認した。


「拉致される時、私の従者が一緒にいたのですが、私を逃がそうとして賊にやられてしまったのです。彼は無事でしょうか?」


従者は、エレオノーラの身を最初から最後まで護ろうと動いてくれた。エレオノーラに心配そうな顔を向けられ、アルフレードはふっと柔らかく笑った。


「大丈夫だよ。彼は発見された後、直ぐに手当を受けた。傷も深くなかったから後遺症もなく、もう元気に仕事に戻っているよ」

「良かった・・・ミスティーア様にも、お怪我はありませんでしたか?」

「ミスティーアも怪我はなく元気にしてるぞ」


アルフレードとファルロスの言葉にほっと胸を撫で下ろすと、「そろそろいいか?」と断りを入れてファルロスがことの経緯と顛末を話し始めたーーー。


話を纏めると、元々ミスティーアが現れる前までファルロスの婚約者候補筆頭だった令嬢が、ミスティーアにファルロスを取られたと逆恨みしたことが事の発端らしい。

そして、その話を聞いた反王太子派の貴族がそれを利用しようと婚約者候補の令嬢を唆し、ミスティーアの拉致話を持ちかけた。

反王太子派の貴族は令嬢の金で賊を雇い、拉致決行日に学園近くの複数箇所で傷害事件を発生させるよう指示。

自身が狙われている可能性も含め、対応に追われたファルロスとミスティーアが離れた隙に、令嬢がミスティーアに話しかけ1人で帰るよう唆した。


「ミスティーアが言うには、『殿下がいないと教会にも行けないのですね。そんなおんぶに抱っこで、人の命を救えるのですか?』と言われ、ムキになってしまったそうだ」

「馬鹿としか言いようがないですね」

「アルフレード様っ!」


その後の事は、エレオノーラの見ていた通りだった。まんまと相手の策略に嵌り襲撃されてそのまま拉致。

想定外だったのは、たまたまエレオノーラが乗り合わせていたことだろう。


「それで、相手方は結局何が目的だったのですか?」

「あぁ、まぁ簡単な話だ。令嬢はミスティーアを賊共に襲わせて傷物にする事で私とミスティーアの婚約破棄を目論み、唆した貴族は聖女を護れなかった王太子として私の失脚を狙っていたらしい」


(令嬢は最終的には王妃になることが目的だったはず・・・相手の目的まで考えずに口車に乗せられたのね・・・)


エレオノーラは少し件の令嬢に同情しつつ、ファルロスに視線を向ける。

なんでもない事のように淡々と話すファルロスの手は血が出てしまいそうなほど強く握り締められていた。

その手を見つめ、エレオノーラはミスティーアの身が無事だったことに改めて安堵した。


「最終的にはエレオノーラ嬢が気を失った後、賊を捕らえて雇い主の話を聞き出して今に至るって感じだな。勿論、主犯の貴族と令嬢はすでに捕らえた。実際の作戦は未遂に終わったが聖女と侯爵令嬢の拉致監禁、それに加えて国家反逆罪。まぁ関わった人間の家は取り潰しされるだろうな」


関わっていない家族まで巻き込まれてしまうのは可哀想だが、こればかりは仕方がないとエレオノーラは黙って頷いた。

そして、全てを話し終えた所でファルロスはパンッと手を叩く。


「さて!話すべきことも話したし、私はそろそろお暇するよ。エレオノーラ嬢、また学園でな」

「はい。お見送り出来ず申し訳ありません」

「気にするな!友の大事な婚約者が目を覚まして本当によかった!アルフレード、しばらく誰も入らないように言っておくから、ゆっくりエレオノーラ嬢と話せよ」

「言われなくてもそうします」


アルフレードの返答に困った顔で笑いつつ、ファルロスは2人に手を振りながら部屋を後にする。

ファルロスが廊下に出て扉を閉めると、廊下の奥から1人の男がファルロスの方に走り寄ってきた。


「殿下!わざわざお越しいただき、ありがとうございます!今、メイドから娘の目が覚めたと聞いたのですが・・・」

「あーっと、ファルクロード侯爵じゃないですか!いやぁそれが、今ちょうどエレオノーラ侯爵令嬢は再び眠りにつかれてしまったようで・・・後はアルフレードに任せて、私は帰ろうと思っていたところなんです」

「そうでしたか・・・。まぁ目を覚ましたばかりで体力も無くなっていたでしょうし、仕方がないですな」

「そうですね。良ければ、目を覚ましたエレオノーラ侯爵令嬢のお話をするので見送っていただけませんか?」

「これは扉の前で立ったまま失礼しました。是非、お見送りさせていただきます」


扉の前で父とファルロスが何やら話をしているようだが、その声は段々と遠ざかっていきこちらに入ってくる気配はない。

エレオノーラがしばらく扉を見つめていると横からアルフレードの顔が現れ、視界を遮った。


「どうかされましたか?」

「ううん。ずっと扉の方を見ているから、面白くなくてね。それよりエレオノーラが寝ている間に弟君から興味深い話を聞いたのだけど・・・」

「興味深い話・・・ですか?」


アルフレードの琴線に触れるような話とはなんだろうかと首を捻って考えてみるが、エレオノーラには全く心当たりがなかった。

考えながらうーんと唸るエレオノーラの姿をアルフレードはニコニコしながら眺めている。

そして、しばらく唸っていたエレオノーラだったが、結局何も思い浮かばずに降参した。


「分かりません。どういったお話を聞いたのですか?」


エレオノーラが問いかけるとアルフレードは笑顔のままゆっくりと口を開く。


「私がエレオノーラから愛想をつかして聖女様に横恋慕しているという噂が流れ、エレオノーラがそれを本気にしていたと。弟君が、エレオノーラがひどく落ち込んでいたと話してくれたよ」


アルフレードの言葉を聞き一瞬固まったエレオノーラだったがすぐに顔を真っ赤にした。

まさか弟がアルフレードにその話をするとは思ってもおらず、なんと弁明すべきかエレオノーラは頭をフル回転させた。


(あんな所まで自分を助けに来てくださった方を疑っていたなんて、なんて失礼なことを・・・)


「あっあのアルフレード様、それに関しては誠に・・・」


エレオノーラが握っている手の力を強め謝罪を口にしようとした時、アルフレードは空いている手の人差し指をエレオノーラの口に押し付けその言葉を遮る。

目をぱちくりさせるエレオノーラにアルフレードは、少し申し訳なさそうな顔をしながら人差し指をそっと外した。

そして、そのままエレオノーラに頭を下げる。


「エレオノーラが謝ることではないよ・・・完全に私の言葉足らず、配慮不足だった。本当に申し訳ない」


急なアルフレードの謝罪にエレオノーラは動揺した。


「アッアルフレード様が謝ることでもありませんわ!学友と親交を深められていただけなのに、噂を信じてアルフレード様を信じられなかった私が悪いのですっ!」

「でも、弟君には叱られてしまったよ。『姉上の性格を熟知しているくせになんで気が付かなかったんだ』って」


自分が眠っている間の弟の発言を聞き、エレオノーラは顔から血の気が引いていくのを感じた。


(アルフレード様になんて口を聞いているのよっっ!後で呼び出してお説教しなきゃっ!)


エレオノーラが心の中で弟への説教を誓っていると、アルフレードはエレオノーラの顔に手を伸ばし頬に優しく触れた。


「あまり弟君を叱らないでやってくれ。私がエレオノーラを不安にさせていたのは事実だから」

「・・・」

「それに、聖女様とは別に友人になったつもりもないよ。実際、ファルロス殿下が聖女様に引き合わせたかったのはエレオノーラだったし」

「えっ私ですか?」


エレオノーラが思いもよらない所で自分の名前を出され驚いていると、頬を撫でていたアルフレードの手がゆっくりと耳元へ移動する。

そのままエレオノーラの耳たぶを触りながらアルフレードは真実を口にした。


「うん。エレオノーラは成績優秀だし、魔力操作が上手いだろう?女性同士仲良くなって、色々と教えてあげてほしかったみたいだよ」

「でっでも、実際に私は今回のことがあるまでミスティーア様と会話もしたことがありませんでした。そもそも、なぜ私の代わりにアルフレード様が?」


そう、エレオノーラはアルフレードから話しかけるな宣言をされてから、なるべく学園ではアルフレードと出会わないようにしていた。

すると、学園では常に3人で行動していたミスティーアとも自然と出会うことはなかった。

なので、仲良くなる以前に遠目からしかミスティーアを見たことがなかったのだ。


もし仮に自分が指名されていたのであれば、最初からエレオノーラがミスティーアの側にいればよかったはず。そうしていれば今回のエレオノーラの勘違いは起きなかったはずだ。

エレオノーラがアルフレードを見つめて問うと、アルフレードは少し拗ねたような顔をしてその問いに答えた。

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