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文章の途中で場面が何回か切り替わります。
読みにくかったらすみません。
ファルロスは駆け寄ってきたミスティーアを受け止め、強く抱きしめる。
ミスティーアは緊張の糸が切れ、ファルロスの腕の中で大粒の涙を流した。
「すまない!助けに来るのが遅くなった・・・」
「大丈夫・・・大丈夫です・・・。助けに来てくださると、信じていました」
お互いの存在を確かめ合うように強く抱き締め合っていると、頭の上から声が降ってくる。
「もうよろしいですか?」
「はっ!そうだ!ミスティーア、一緒にエレオノーラ嬢がいたはずだ。彼女はどこにいるんだ?」
状況を思い出し、ファルロスは腕の力を緩めるとミスティーアの顔を見てエレオノーラの所在を確認する。
ファルロスの瞳を見たミスティーアは、再び大粒の涙を溜めてファルロスに説明する。
「ファルクロード様はっ!私を逃がすために1人でまだ賊に捕まっていますっっ!このブレスレットもっ使えばヴィラルーシェ様に場所を知らせることができるからと逃げる際にファルクロード様が持たせてくださいましたっっ・・・!」
「なっっ・・・」
エレオノーラが未だ賊の元に居ることを知り、ファルロスは顔の色を失う。
それと同時に背後からとてつもない冷気を感じ、ぶるっと身を震わせた。
「お願いします!早くファルクロード様を助け出してください!ファルクロード様、私を逃がすために魔力を沢山使ってしまって、時間稼ぎもあまり出来ないと仰っていました。このままじゃ・・・ファルクロード様がっっっ!」
「ミッミスティーア、分かったから一旦落ち着いて・・・」
ファルロスが泣きながら訴えるミスティーアを慰めていると、再び頭上から声がふってくる。
その声は先程とは違い、とても冷たかった。
「場所を知っているあなたがいつまでも泣いていては助けに行こうにも行けないのですが、その頭の中に脳みそは入っていないのですか?」
今まで聞いた事のない冷たい声と言葉にミスティーアは固まり、恐る恐る馬に跨るその人物を見上げる。
見上げた先で瞳に映ったその人物の顔にいつもの優しい笑顔はなく、感情のない表情と冷たい殺気を纏いながらミスティーアを見下ろしていた。
「ヴィラルーシェ・・・様・・・?」
アルフレードを見上げるミスティーアの瞳に先程までの涙はなくなっていたーーー。
「やりやがったな!クソがっっ!」
「っっっ!!」
部屋に転がっていた木製の棒で頭を殴られ、エレオノーラは衝撃で横に倒れた。
痛みに耐えて顔を上げたエレオノーラの額からは血が伝っている。
ミスティーアが居ないことに気づいた賊は、すぐに廃墟の周り一帯を探しに行った。しかし、少なくともすぐに見つかる場所にはいなかったようで、半数を捜索のためにその場に残すと、ボスと数名がエレオノーラの居る部屋に戻ってきていた。
「おいおい、あんまりやり過ぎるなよ。ボコボコになったらやる気が失せちまうだろ」
エレオノーラを痛めつけている部下に軽く注意をするボスの男は、エレオノーラの前に椅子を置き、その様子をニヤニヤと眺めていた。
頭の痛みを必死に耐え、エレオノーラは男の方を見る。
「いやぁーやってくれたね。お前その手錠の仕組み知ってたんだな。それを隠して捕まるとは、いやはや恐れ入ったよ」
「・・・」
「ファルクロード侯爵だっけか?令嬢様にこんな装置の仕組みを教え込むとは随分過保護なんだな」
「・・・お褒めに預かり光栄ですわ」
男の言葉を鼻で笑いながら返事をすると、棒を持った賊に今度は後ろから思い切り髪を引っ張られた。
「っっ!」
「口答えしてんじゃねぇーよ」
「だからやめろって。悪いね、行儀がなってなくて。それで、逃がした聖女様の行方を俺らに教える気は・・・ないよな?」
「残念ながら、外に出た後どこに行ったかまでは分かりませんわ。私は逃げる手助けをしただけですから」
口元に笑顔を作りながら話すエレオノーラの様子を、男は顎に手をあてながらじっと見つめていた。
そして、じっとしていた男が顎から手を離して横にふると、エレオノーラの髪を掴んでいた部下はその手を離して男の後ろへ戻っていく。
仰け反った体勢から解放されたエレオノーラは思わず咳き込む。
「ゴホッゴホッ!」
「まぁ、そんな所だろうとは思ってたよ。あの聖女様が助かる一番可能性の高い方法を選んだんだろ」
椅子から立ち上がった男はゆっくりとエレオノーラの前まで歩いてくるとその場でしゃがみ込んだ。
「だが、残念だったな。この森は俺たちの縄張りだ。馬を持たない女1人くらい、もう半刻もすれば見つけ出せる。そしたら、全部元通りだな」
話しながら男の手がゆっくりとエレオノーラの方に伸びてくると、その手はそのままエレオノーラの太ももに触れた。
触れられた瞬間、ビクッとエレオノーラが身体を揺らすのを見ながら男は太ももを撫で始める。
「聖女が帰ってくるまでの間、どうやって時間を潰そうか考えたんだが・・・こんな状況を作ったお前に頑張ってもらうってのが一番だと思わないか?」
エレオノーラは太ももを撫でられている不快感を必死に耐える。
すると男は太ももを撫でていた手を離し、腰のナイフを抜くとエレオノーラの制服の襟元に刃を立てた。
「・・・こんな令嬢に手を出すなんて、ちょっと趣味が悪いんじゃないですか?」
「そんなの、脱がしてみないと分からないだろ?」
男の手がゆっくりと下がるのと同時に、エレオノーラの制服が引き裂かれていく。
エレオノーラの胸下まで刃が降り、切られた制服の隙間から谷間が露になると男の後ろから「ヒューゥ」と声が上がった。
エレオノーラが男の肩越しに奥を見ると、後ろに控えていた賊達がニヤニヤと興奮した顔でこちらを見ていた。
(あぁ、これはもう駄目ですかね・・・)
エレオノーラは瞬時に自分の未来を悟った。
手錠をされたままなので強力な魔法は使えない。
そもそも魔力は底をつき、その影響で身体にも力が入らなくなっていた。そして、先程殴られた箇所から血を流しすぎて頭もぼーっとしてきている。
(・・・こんな事になるなら、アルフレード様のお気持ちを確かめておけばよかった)
気を抜けば意識を手放してしまいそうな状況の中、エレオノーラは弟に言われた言葉を思い出していた。
『気になるなら、本人に直接確認してみればいいじゃん』
(傷物になんてなったら、今度こそ婚約破棄されるわよね・・・それ以前に、助けに来てもらえるかも微妙だけど・・・)
そんなことを考えているエレオノーラの瞳には涙が浮かんでいた。
そんなエレオノーラの顔を見ず、男は露になっていく身体を凝視しながらナイフを下ろし続ける。そして、その刃が制服の裾まで到達すると、男はニヤリと笑いそのまま裾を断ち切った。
下着が露になった状態のエレオノーラを見つめ、男はナイフを捨てその手を胸へと伸ばす。
「それじゃ、趣味が悪いかどうか確認させてもらうぜ」
伸びてくる男の手をじっと見つめるエレオノーラの瞳から涙が零れ、頬を伝った。
(申し訳ありません。アルフレード様・・・)
エレオノーラが全てを諦め瞳を閉じたその時、ミスティーアを逃した小窓から差し込む月明かりが影った。
人の気配を察知した賊達が小窓を見上げた瞬間、ボスの男が衝撃波のようなものでエレオノーラの向かい側の壁に吹き飛ばされる。
「がっっっ!!」
「「お頭っっっ!!!」」
突然後ろに吹き飛んだ男に驚き、賊達が混乱しているとエレオノーラの半径1メートルに防御魔法が展開された。
そして次の瞬間、大きな衝撃波と共に小窓側の天井が破壊され、一緒に壁も崩れて部屋全体が月明かりに晒される。
ドゴォォォンッッ!!
「うわぁぁぁぁ!!」
「くそっ!敵襲か?!このっ誰も動けねぇのか?!」
「瓦礫が邪魔で身動きがとれねぇ!!」
部屋にいた賊達は崩れてきた壁や天井の下敷きとなり、身動きが取れず何とか脱出しようともがいている。
そんな中、防御魔法のおかげで無傷のエレオノーラは、ゆっくりと破壊された壁と天井を見上げた。
「悪いけど、彼女は私の婚約者なんだ。君ら風情が触れていい相手じゃない」
(あぁ、嘘でしょ・・・)
月明かりに照らされたその男の姿を確認し、エレオノーラの瞳から止めどなく涙がこぼれ落ちる。
男は浮遊魔法を使いゆっくりと降りてくると、エレオノーラの近くにある瓦礫をどけ、防御魔法を解除した。
そしてエレオノーラの前にそっと膝をつき、自分が羽織っていた上着を脱ぐとそっとエレオノーラの前を隠すように羽織らせる。
「待たせてしまってごめんね、エレオノーラ。ここからは任せて」
「アルフレード様っっっ・・・」
アルフレードは手を伸ばし、エレオノーラの頬に左手を添える。エレオノーラは添えられたその手をぎゅっと握った。
頬からアルフレードの手の温かさを感じ、エレオノーラの涙はさらに大粒になって流れ落ちる。
そんな中、アルフレードは目の前で泣くエレオノーラをじっと観察していた。
何かで殴られたのか額から血が伝い、添えられた手首には手錠が嵌められ、手錠の角の部分に当たる手首が擦れて赤くなっていた。
触れている頬から体内の魔力もなくなっていることも確認し、アルフレードは悲しそうに顔を歪めながらエレオノーラに声をかける。
「こんなにボロボロになって可哀想に・・・。体内の魔力もなくなってしまっているね・・・すぐに片付けるから少し待っててくれるかい?」
アルフレードの言葉にエレオノーラは素直にコクンと頷いた。
「いい子だね。ありがとう」
エレオノーラの頷きに対して笑顔で優しく頭を撫でると、アルフレードはすっと立ち上がり再びエレオノーラに防御魔法をかける。
そして埋もれた賊の方へ振り返った。
そこには、エレオノーラに向けていた笑顔はない。
「エレオノーラを早く治療しないといけないんだ。とりあえず、君らの頭はどれだ?出てこないなら、今私の目の前にいるこれってことにするけど」
アルフレードはそう言うと、足元で埋もれている賊の頭を思いっきり踏みつけた。
「いぎっっ?!」
突然踏みつけられ、床と靴に顔面を擦り付けられた賊は思わず声をもらす。
「ねぇ、どうする?」
仲間を踏みつけられた賊達は瓦礫の下からアルフレードを睨みつける。しかし、アルフレードがその足を賊の頭から退かす気配はなかった。
「「・・・」」
「・・・そう、それが答えね」
賊達が皆口を閉ざしていることを確認するとアルフレードは小さくため息をつく。
そして徐ろに踏みつけていた足を上げるとそのまま思いっきり踏み抜いた。
2日目はここまでです。
また明日もよろしくお願いします。