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文章の途中で場面が何回か切り替わります。
読みにくかったらすみません。
「あっ!ここなら隠れられそう!」
小窓から脱出したミスティーアは、エレオノーラから言われた通りに自分の身を隠せそうな場所を探し、丁度自分が入れそうな隙間のある木の幹を見つけた。
(早く隠れて魔法使ってヴィラルーシェ様に知らせなきゃ・・・)
膝をついて幹の隙間へ潜り込むと、ミスティーアは早速ブレスレットに魔力を流し始める。
すると、すぐに防御魔法が展開されミスティーアの周りを半透明の緑の壁が包み込んだ。
(これで私は一先ず大丈夫・・・神様お願いします!どうかエレオノーラ様を守ってください!)
ミスティーアはそう祈りながらブレスレットに魔力を注ぎ続けた―――。
場所は変わってエレオノーラ達がいた学園の一室。
「ミスティーアが行方不明とはどういう事だ!!」
部屋の中にファルロスの怒号が響き渡った。
「そっそれが、我々が殿下に招集されている間に従者数名を連れて帰路に就いたらしく、そこを賊に狙われたようですっ!」
怒鳴られた伝令係はビクビクと怯えながら、事の経緯を説明する。
「一緒に居た従者は全員気絶させられ、そこを通りがかった行商人がもぬけの殻になった馬車と倒れた従者を発見し、通報したそうです。それで騎士団が確認しに行った所、確かにミスティーア様の馬車だったと・・・」
「くそっ!!」
ファルロスはバンッ!!と机を思いっきり叩き、怒りを露わにする。
部屋に集められた騎士達は普段見せないファルロスの姿に驚きつつ、その尋常でない怒りに身動きが取れなくなっていた。
「ミスティーアは私の婚約者であると同時に、この国の大切な聖女だ。何があっても傷つけられてはならないのに・・・。あぁっくそっ!あんなに護衛を連れずに行動するなと言っていたのに!!」
綺麗に整えられた髪をぐしゃぐしゃっと掻き毟り、ファルロスはどんどん苛立っていった。
部屋の空気がピリついて誰も声を出せないでいる中、部屋のソファに座って紅茶を飲んでいた男がのんびりとした声でファルロスに話しかける。
「殿下、少し落ち着かれてはいかがです?殿下がその様に取り乱していては、騎士達も困ってしまいますよ」
男の声を聞き、掻き毟っていた手を止めてファルロスはゆっくりと顔を上げる。
「アルフレード・・・」
「起きてしまったことを今後悔していても仕方がありません。それは聖女様を助けてからすればいいのです。あと、殿下は忠告されたと仰いますが、あんな優しく言っていては相手にその真剣さは伝わっていないと思いますよ」
ソーサーにカップを置きながら笑顔でファルロスにそう伝えると、アルフレードは立ち上がってファルロスの側まで歩み寄る。
「・・・忠告になってなかったか?」
「正直、右から左だったと思いますよ」
「あぁぁ・・・なんでその時フォローしてくれないんだよぉ・・・」
「そこまでする義理は無いかと」
恨めしそうにアルフレードを睨みつけるが、当の本人は清々しいほどの笑顔をファルロスに返す。
そんな様子を外から見ていた騎士達は、ファルロスがいつもの落ち着きを取り戻したことに安堵した。
「はぁ、確かにアルフレードの言う通りだな。ここで俺があーだこーだ言っていても仕方がない。まずは目撃情報がないかあたろう。あの時間帯であればきっと目撃者がいるはずだ」
ファルロスが1人の騎士に目配せすると、その騎士は黙って頷き数名を引き連れて部屋を後にした。
「あー後は何をすべきか・・・」
「あっあのっっ!」
ファルロスが次の指示を出そうとした時、最初の伝令係が声を上げた。
「んっ?どうした?まだ報告があったのか?」
ファルロスは先程とは異なり、優しく伝令係に発言を促す。
また怒鳴られると思っていたのか、ファルロスの様子に一瞬安堵の表情を見せた後、伝令係は伝えられていなかった情報を話す。
「実は、倒れていた従者の中にミスティーア様の従者では無い者がおりました。額を強く打ち、気を失っていたのですが先程目を覚まし・・・その後ずっと自分をヴィラルーシェ・アルフレード様に会わせろと言って聞かず・・・」
「私に?」
アルフレードは突然自分の名前が呼ばれ聞き返す。
「はっはい。それで、重要な目撃者の可能性もあったので、とりあえず連れてきているのですが・・・」
伝令係が扉の方へ視線を運ぶ。
どうやら、その目撃者をこの部屋の外まで連れてきているようだ。
「そうか、ならそいつから当時の状況を・・・」
キュィィィィィン!
ファルロスが伝令係にその従者を連れてくるよう伝えようとした時、アルフレードの右手首が強い光に包まれた。
「なっなんだ?!」
「!!!」
ファルロスが驚いている横でアルフレードは光った右手首の袖を捲り、光源であるブレスレットを見つめた。
「エレオノーラ・・・?」
「おいアルフレード!そのブレスレットなんなんだよ!」
ファルロスの問いかけを無視し、アルフレードはブレスレットを見つめ続ける。
するとブレスレットの光が次第に地図のようなものを映し出した。
映し出された地図をアルフレードとファルロスは見つめる。
「この地図はなんだ・・・?真ん中が点滅しているが・・・」
「・・・これは、私がエレオノーラに渡していたブレスレットからの信号です」
「エレオノーラ嬢から?」
「えぇ・・・彼女がこれを使ったのであれば、何かよくない状況に陥っているのでしょう・・・」
地図から目を離さずにアルフレードがそう告げると、何やら部屋の外が騒がしくなっていた。
「おっおい!まだ呼ばれていないから入るんじゃない!」
「それどころじゃないんだ!離せ!!」
どうやら、伝来係が連れてきている男が中に入れろと騒いでいるようだった。
中に居た騎士が静かにするように伝えに行こうとした瞬間、それよりも早くアルフレードが扉のドアノブへ手をかけていた。
「アルフレード?」
ファルロスが後ろから声をかけるが、アルフレードの意識はすでに外の男へ向いていた。
アルフレードは、外から聞こえるその声に聞き覚えがあったのだ。
ガチャッ
扉を開け、目の前で2人の騎士に拘束されている男をアルフレードは確認した。
「君は、エレオノーラの従者だよね?」
「アッアルフレード様!!!大変なんですっっ!!!」
突然出てきたアルフレードに固まっている騎士の腕の中で、従者はアルフレードに気がつき顔を上げて叫ぶ。
「お嬢様がっ!!エレオノーラお嬢様が聖女様と一緒に賊に連れ去られました!!」
「!!」
「あっ!おいっアルフレード!!」
従者の言葉を聞いた瞬間、アルフレードはそのまま部屋から飛び出していった―――。
(ミスティーア様が出てから見回りが来たのが2回・・・もうすぐ3回目の見回りが来るはず・・・アルフレード様達は動き始めてるかしら・・・)
魔力を消耗し、ぐったりと壁にもたれ掛かりながらエレオノーラは小窓から差し込む月明かりをぼーっと眺めていた。
(2回も誤魔化せるなんて・・・私、意外と魔力あったのね)
ふふふっと1人で笑っているが、エレオノーラにはもう魔力はほぼ残っていなかった。
隣に生成したミスティーアの幻影も、次第に薄まってきている。
(もう1回ぐらい誤魔化せると最高ですけど、それは出来なそうですね・・・)
エレオノーラが自分の限界を感じて瞳を閉じた瞬間、幻影はすっと姿を消した。
そして、次の瞬間には魔力切れによる反動で急激に心拍数が向上し、エレオノーラは1人、嫌な悪寒と冷や汗を流しながら浅い呼吸を繰り返す。
すると、タイミング悪く3回目の見回りがやってきた。
カツカツカツ・・・キィィー・・・
「・・・んっ??」
覗き穴からこちらを見た賊が部屋の中の異変に気がつく。
カタン・・・ガチャガチャ・・・ガチャン・・・ギィィー・・・
部屋の鍵を開けて入ってくると、男はエレオノーラの隣にミスティーアが居ないことを確認した。
「っっ!大変だ!おい!聖女が逃げたぞ!!!」
扉を開けっ放しにしたまま賊は聖女が逃げたことを仲間に知らせに走り去る。
(あぁ・・・今走れば逃げられるのに・・・)
開けられたままの扉を見つめながらそう思うが、今のエレオノーラにはもう立ち上がって逃げる体力は残っていなかった―――。
「うぅぅぅ・・・まだ誰も来ない・・・」
木の幹に隠れながら、ミスティーアはその時をじっと待っていた。
すでに一刻以上、ブレスレットに魔力を注ぎ続けているが、未だに助けはやってきていない。
(さっき、ブレスレットにヒビが入っちゃったんだよね・・・助けが来る前にこれが壊れたらどうしよう・・・)
ミスティーアは手首につけたブレスレットを見る。
先程からミスティーアに適正量以上の魔力を注がれ続けているブレスレットは、所々ひび割れ始めてもういつ壊れてもおかしくない状況だった。
(そもそも、対になるブレスレットをヴィラルーシェ様がつけていなかったら・・・)
最悪な未来が頭を過ぎり、ミスティーアはブンブンと頭をふった。
(駄目駄目!!今はこれを信じるしかないんだ!ファルクロード様を助ける為にも!私が泣き言なんて言っちゃ駄目だ!)
零れそうな涙を拭い、再び魔力を注ぐことに集中しようとしたその時、遠くから馬の走る音が聞こえた。
ガサガサ・・・
パカラ・・・パカラ・・・
ミスティーアは一瞬顔を明るくしたが、すぐに自分の口を手で塞ぎ、身体を小さくして幹の陰に隠れた。
(馬の音はするけど全然声が聞こえない・・・ヴィラルーシェ様たちの可能性もあるけど・・・まさかもう賊が?!)
まるでミスティーアの隠れている場所が分かっているかのように次第に大きくなる音。
パカラ・・パカラ・・・
遂に馬の足音がミスティーアが隠れている近くまで来た瞬間、ミスティーアはぎゅっと目を瞑った。
(・・・ファルクロード様・・・っ!!!)
馬の音が、丁度ミスティーアの隠れている木の幹の前で止まる。
瞑っている瞳から涙が零れるのと同時に、外から聞き覚えのある声が聞こえた。
「・・・エレオノーラ・・・?」
「っっ!!!」
聞き馴染んだ声に、ミスティーアは目を開けて素早く穴から這い出した。
そして、這い出してきたミスティーアを確認した1人の男が先頭の馬の横から出てきてミスティーアに駆け寄る。
「ミスティーアっっ!!!」
「っっっ!!!ファルロス様っっ!!!」




