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2日目です。

よろしくお願いします。

「えっ、でも・・・」


エレオノーラの言葉に戸惑いながらミスティーアが何か言おうとすると、エレオノーラがその言葉を遮る。


「失礼ですが、ミスティーア様は魔力量を正確にコントロールできますか?」

「っ・・・!」


エレオノーラの言葉に、ミスティーアはカッと顔を赤くして俯く。

そのまま顔を上げなくなったミスティーアにため息をつきつつ、エレオノーラは話を進めた。


「失敗すれば、どれほどの電流が流れるかは分かりません。それにもし感知されてしまった場合、あの男たちに脱走を気取られて今度は何をされるか分かりませんよ。他の方から聞いた話ですが、あまり魔力操作が得意ではないですよね。であれば、あまりおすすめはしません」


黙って小さくなっているミスティーアのつむじをエレオノーラはじっと見つめる。

小さくなって震えるその姿は、兎やリスなどの小動物を連想させた。


(これは、周りの殿方が強く出れない気持ちも分からなくはないですね・・・ですが、ミスティーア様の魔力量で下手な事をされたら困りますし・・・)


今はこんな状態のミスティーアだが、その見た目とは裏腹にその魔力量は歴代聖女随一とも言われている。

聖女は特別な治癒魔法によって万人を癒すが、ミスティーアであれば死者の蘇生も可能だと妄言を吐いて周囲を囃し立てる貴族も出てきたぐらいだ。


しかし、当の本人は魔力操作が苦手らしく、今はその膨大な魔力量でゴリ押ししているらしい。確かに今はそれで問題は起きていないが、いずれは精密な魔力操作が求められる場面も出てくるだろう。

そんな時のため、周囲の人間はミスティーアに魔力操作の鍛錬にもっと時間を割くよう進言している。しかし、魔力操作への苦手意識から一向に鍛錬をしたがらないらしい。


なかなか顔を上げないミスティーアにエレオノーラは説明の続きを話し始めた。


「なので、まずはこの鍵を使ってミスティーア様の手錠を外します。その後、ミスティーア様はあの小窓から外に脱出してください」


エレオノーラの言葉にようやくミスティーアが顔を上げる。


「でっでも誰かが見張っているのでは・・・」

「大丈夫ですわ。探知魔法を使ってみましたが、あの小窓側に他の窓はなく、見張りの賊もいません」

「たっ探知魔法まで使ったんですか!」


ミスティーアは分かりやすく驚いた顔をする。


「魔力量の制限がありますので、あまり広い範囲は見れていませんが、少なくとも脱走を警戒した見張りはいないと思います」


エレオノーラはミスティーアがすすり泣いている間、手錠に感知されないように気をつけながらずっと状況把握を進めていた。

感知されないギリギリの魔力量で探知魔法を展開し、その結果、常に誰かが見張っているような状況でないことは確認済みだった。


「恐らく、今私たちがいるのは王都から北西に少し離れた森の中です。この森であれば、大きな樹木が多いのでミスティーア様であれば木の幹に身を隠すこともできるはずです」

「北西の森ってなんで分かるんですか?」

「乗り込んだ馬車が向いていた方角と、その後の進行状況からの憶測です」


(あぁ、本当に話が進まない・・・)


イラつきを隠し、なんでもないことのように話すエレオノーラにミスティーアは呆気に取られる。


「でっでも、隠れていてもいずれ見つかってしまいます!」

「それを避けるために、持って行ってほしいものがあります。と、その前にまずは手錠を外してしまいますね」


そう言われると、ミスティーアは恐る恐る手錠の嵌った手をエレオノーラの方に差し出した。

手錠の鍵穴を見つけたエレオノーラは、生成した鍵をその穴に差し込み、ゆっくりと捻る。


ガチャン・・・


「はっ外れました!」

「第一関門突破ですね。ではミスティーア様、私の手首についているブレスレットを外していただけますか」

「はい!」


手錠が外れ、元気になったミスティーアは自由になった両手で指示通りにエレオノーラの右手首についていたブレスレットを外した。

手首からブレスレットが外れたことを確認し、エレオノーラはミスティーアと向かい合うように座り直す。


「そのブレスレットに魔力を込めると、使用者を中心とした半径1メートルに防御魔法が展開されます。そしてそれと同時に、対になっているアルフレード様のブレスレットにこのブレスレットの位置情報が転送されます」

「ヴィラルーシェ様のところに?!」


驚いた顔をするミスティーアにエレオノーラは笑顔で応える。

そう、このブレスレットはエレオノーラが学園に入学するタイミングでアルフレードから贈られたプレゼントだったのだ。


『これからはずっと近くに居られる訳じゃないし、何があるか分からないから外さずに身に着けていてね』


その場でエレオノーラの右手首にブレスレットを付けながら、アルフレードはエレオノーラにそう言った。以降、エレオノーラはこのブレスレットを一度も外したことがない。


(アルフレード様が今も身に着けてくださっているかは分かりませんが、今はこれに賭けるしかありません)


ミスティーアの手の中にあるブレスレットを見つめながら、エレオノーラはそのブレスレットに一縷の望みを賭ける。


「なっなら、この場でこれを使いましょう!ファルクロード様の手錠も外して、これを展開して・・・ヴィラルーシェ様が気づいて助けに来てくださるまで魔法の中にいればいいではないですか」

「それは危険すぎます。そもそも助けに来てくださるのかも分かりませんし、来てくださるとしてもそれまで私たちの魔力がもつのか、このブレスレットが耐えられるのかも分かりません。今とるべきは一番確実に助けを呼ぶことです」

「でっですが・・・」


食い下がろうとするミスティーアにエレオノーラは冷静に話を続ける。


「それに、このブレスレットで防御魔法を起動させるにはそれなりの魔力が必要です。そして、それを維持するには一定量の魔力をずっと込め続けなければいけません。ミスティーア様は賊に囲まれ、防御魔法を破壊されそうになりながら、そのようなことをできる自信がありますか?」

「っっ!・・・ファッファルクロード様が防御魔法を展開するのではダメなのですか?」

「先ほども言った通り、この魔法を展開し続けるためには相当な魔力が必要です。私は今の段階でそれなりに魔力を使ってしまっているので、魔法を展開できても10分が限界だと思います」

「そっそんな・・・」


ぎゅっとブレスレットを握りしめながらミスティーアはエレオノーラの言葉に絶望した。

事実、盗賊に捕まる前にけん制で見せた魔法と、ここに連れて来られてから何度か繰り返している探知魔法の影響でエレオノーラは確実に魔力を消耗していた。


「いいですか、今の状況で確実に助けを呼ぶためには、ミスティーア様がここから脱出して森の中でこのブレスレットを起動させた状態で隠れるのが最善なのです」


強くブレスレットを握っているミスティーアの手をそっと両手で包み、エレオノーラはミスティーアを真っ直ぐ見つめる。

しばらくすると、覚悟を決めたミスティーアは握っていたブレスレットを自分の手首に着け直した。


「・・・これから私はどうしたらいいですか?」


真っ直ぐと自分を見つめるミスティーアにエレオノーラは再び説明を始めた。


「そろそろ半刻ごとの見回りが来るはずです。その見回りが去ったあと、積まれている木箱を登って小窓から脱出してください。私は幻影魔法でミスティーア様を作りだして時間を稼ぎます」

「げっ幻影魔法も使って大丈夫なのですか?!」

「ギリギリですが、大丈夫ですよ。ただ、私はミスティーア様ほど魔力量が多くありませんし、先程も言った通り今の時点でだいぶ消耗してしまっています。長時間は持ちません。脱出がバレて捜索されても見つからなそうな場所まではきちんと逃げてくださいね」

「・・・ファルクロード様の手錠も外して一緒に逃げる事は出来ないのですか?」


エレオノーラが何故そうしないのか分からず、ミスティーアは疑問を素直に口に出す。


「魔力量を制限された状態で生成したものは強度がイマイチなんです。ほら先程作った鍵ももうただの土になっているでしょう?」


エレオノーラが先程外した手錠を指さす。ミスティーアが手錠の方に視線を向けると、そこに差し込まれていた鍵はなく、手錠と少量の土だけが残っていた。


「これから新しく鍵を作ることもできますが、それをする時間も私の魔力の余裕もありません。それに、私ではあの小窓から出ることは出来ませんしね。ですから、ここからはミスティーア様が頼りなのです。よろしくお願いしますね」

「わっ分かりました!」


ミスティーアが胸の前で握り拳を作ってやる気を見せると、エレオノーラは小さく笑ってから幻影を作成する準備を始めたーーー。


カツカツカツ・・・キィィー・・・カタン・・・カツカツカツ・・・


「・・・行ったようですね。ミスティーア様、動き始めてください」

「はっはい!」


既に幻影と入れ替わり、小窓の真下にある木箱の影に隠れていたミスティーアはエレオノーラの合図で木箱を登って小窓を目指した。


「最後にもう一度お伝えしますが、森に入ったら遠くへ行くのではなく、身を隠せる場所を探してください。そこでブレスレットを使って待っていれば、きっとアルフレード様たちが助けに来てくださいます」

「分かりました!」


1番上の木箱まで登ったミスティーアは小窓へ手をかける。


(元庶民なだけあって身軽ですね・・・)


エレオノーラがミスティーアの身のこなしに関心している間にミスティーアは小窓に身を突っ込み、無事に外へ出ることが出来た。

外に出たミスティーアは振り返って小窓から部屋の中を覗いた。


「絶対にヴィラルーシェ様達を連れて来ます!」

「よろしくお願いします。あっそのブレスレットの耐久性も分からないので、苦手なのは承知してますが頑張って魔力は抑えめで使ってくださいね」

「はいっ!」


ミスティーアは元気に返事をすると顔を引っ込めて森の方へ走っていった。周囲が静かになるとエレオノーラは壁にもたれ掛かり静かに瞳を閉じる。


(私にもっと魔力があれば良かったのですけれど・・・もう底が近いですね・・・せめて、あと1回くらい見回りの目を誤魔化さないと・・・)


額に汗が伝うのを感じながら、エレオノーラは1人だけになった部屋の中で幻影魔法に集中したーーー。

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