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最終話、他よりちょっと長めです。


切り付けられた男とミスティーアの悲鳴が部屋に響き渡る。

ミスティーアはそのままファルロスに抱き着き、その肩口に顔を押し付けて涙を流し始めた。

しかし、そんなミスティーアにアルフレードは追い打ちをかける。


「やり直しです。これじゃ、何の意味もない」

「やっやり直し・・・?」


アルフレードの言葉にミスティーアは顔を上げずに聞き返した。


「私は、"これ"の手と頭の傷だけを治してもらいたかったのです。全身、ましてや精神異常まで治すことなど求めていません・・・ですが、先ほどのは殿下の説明不足もあったので不問としましょう」

「俺のせいか」


突然自分に罪を着せられファルロスが思わず突っ込むが、アルフレードはそれを無視して部下の男を指さす。


「さぁ、次は間違えず、"あれ"の手の傷だけを治してください」


笑顔でそう告げるアルフレードに、ミスティーアはビクビクしながら顔を上げると再び男へ手を向ける。

すると、先程と同じ治癒魔法が展開された。

しかし、その規模は先ほどと同じ範囲で起動され、ミスティーアが手を下ろすと男の手の甲はもちろん、背中の傷までが治っていた。

再び完全に完治した男を見たアルフレードが不満げにミスティーアを見下ろす。


「・・・話聞いてました?」


アルフレードの声にビクッと肩を震わせたミスティーアは慌てて腕を振って弁明した。


「ちっ違うのです!私っ魔力操作が苦手でっ!治癒魔法の小規模展開とか、特定の場所を狙った展開とかができなくって・・・!」


ミスティーアは必死に説明するが、アルフレードは表情を変えずため息混じりに口を開く。


「そんなの知っていますよ」


アルフレードの言葉に動きを止めたミスティーアは怯えた表情でアルフレードを見上げる。


「でっではどうしろと・・・」

「今まで出来なかったのは知っています。だから、この場でできるようになってくださいと申し上げているんですよ」


さも当たり前のように言い放つアルフレードにミスティーアが固まっていると、放置されていた2人が声を上げた。


「おいっ!内輪揉めしてんなら俺らを解放しろ!!」

「そうだ!知ってることなら全部教えてやる!だからっっ・・・!」

「勝手に喋らないでください。こちらの話が終わるまで、舌を切ってもいいんですよ?」


視線を向けられることなく言い放たれたアルフレードの言葉に再び男たちは黙ることしか出来なかった。

男たちが静かになるとアルフレードは再びミスティーアとの会話を再開する。


「さて、どこまで話したか・・・あぁそうだった、つまりですね、あなたには"これ"を使って魔力操作の練習をしてもらいたくて殿下に連れてきてもらったのですよ」

「こっこれ・・・?」


状況が呑み込めていないミスティーアが聞き返すと、アルフレードは先程と同じように人差し指を横にすっと滑らせた。

すると、今度はボスの男と部下の男、2人の手の甲がスパッと切りつけられた。


「っあぁぁぁぁっっ!!」

「いぎぃぃぃぃっっっ!!」


先程よりも深く切りつけられ、2人の傷口から大量の血が流れ出ている。

痛みに2人が悶えていると、アルフレードは牢の隅の方へと歩き、壁に立て掛けてあった鉄の棒を掴んだ。

そしてその棒を持って男たちの前まで戻ってくると、その棒先をボスの男の傷口に押し当てる。


「いだぁぁぁぁぁあぁっっ!!」

「今叫んでいる"これ"の事です。わかりました?」


男の傷口に棒をグリグリと押し付けながら、アルフレードはミスティーアの方を振り返った。

もう涙が止まらなくなっているミスティーアはブンブンと首を振って何度も頷く。


「今回の事件、元々は貴方の軽率な行動が原因で起きたものです。ただ、それに関しては聖女という立場をきちんと貴方に教えて来なかった周りにも責任があります。そして、それは私にも言えることです」


アルフレードの言葉に、ファルロスは静かに頷いた。この事件の発端はミスティーアに対する周囲の対応の甘さに他ならない。


「ですから、そのことに関して貴方だけを責める気はありません。・・・問題は捕まった後の事です」

「捕まった後・・・?」

「殿下から聞きましたよ。貴方、嵌められた手錠のせいで魔法が使えなかったそうですね」

「っっ!」


アルフレードの言葉に、ミスティーアはかっと顔を赤くした。


「もし、あの場で貴方がある程度魔力操作が出来ていれば、状況はもっと変わっていたかもしれません・・・まぁ、聖女はその特別な治癒能力と引き換えに他の魔法は全く使い物にならないらしいので、どこまでエレオノーラの力になれたかは分かりませんが・・・」


アルフレードはボスの男の手に押し付けている棒の先を見つめながら、手を休めることなくその傷口をいじめ続ける。男は、歯を食いしばってその痛みに耐えるしかなかった。


「少なくとも、あの場でブレスレットを使っていればエレオノーラがあんな目に遭うことはなかったはずです」


アルフレードの言葉にミスティーアはぱっと顔を上げて反論する。


「わっ私だってその場で使うことを提案しましたっ!でもっファルクロード様が本当に助けに来るのかも、ブレスレットがそれまで保つかも分からないからって・・・」


アルフレードはミスティーアの言葉に一瞬動きを止めたが、すぐに手の動きを再開した。


「・・・前半部分は置いといて、ブレスレットの強度に関しては貴方を納得させるための発言でしょうね」

「えっ・・・?」


依然としてミスティーアに視線を向けず、アルフレードは話を進める。


「あのブレスレットに使っている石は私の特注なんです。物を介した魔法はその発動のために魔力を受け取るコアが必要になります。そして、そのコアの強度によって、発動できる魔法の規模や持続時間が異なる・・・ということは学園で習ったのでご存知ですよね?」

「はっはい・・・」

「エレオノーラに贈ったブレスレットでコアになるのが私が特注した石だったのですが、あれは、エレオノーラの魔力量と魔力操作の能力値に合わせて魔力の許容値は少し低めにしつつ、その分長時間発動可能なように強度を上げて作ったものなんです。許容量を超えない魔力であれば、ブレスレット自体は一週間絶えず使用していても壊れないはずですよ」


アルフレードの言葉に、ミスティーアの顔はどんどん青くなっていく。


「そっそんな・・・」

「もちろん、これはエレオノーラにも伝えてあります。なので、エレオノーラの中にはあなたにあの場でブレスレットを使ってもらう選択肢ももちろんあったでしょう。しかし、彼女はそれをせずに自分を危険に晒す選択をとった。それはなぜか・・・もうお分かりですよね?」


エレオノーラは捕まって手錠の仕組みを話した時、あえて厳しい発言をすることでミスティーアの様子を伺っていた。そして、エレオノーラの発言に反論してこないミスティーアを見て、ブレスレットを牢の中で使用する選択肢を切り捨てたのだ。

より確実に、ミスティーアを助けるために。


「だっだって・・・」

「私も驚きましたよ。あなたから受けとったブレスレット、あの時点でヒビが入っていましたから。殿下からも魔力操作が苦手で鍛錬を受けたがらないとは聞いていましたが、まさか全く受けていないとは思いませんでした。・・・聖女としての使命に燃え、暇を見つけては教会に併設された診療所に通っている方が、苦手な事から目を背けなんの成長もしようとしていないなんて・・・あのブレスレットを壊すほど、ご自身の魔力が操作できていないのですね」


アルフレードの言葉に、ミスティーアは黙って下を向くことしかできなかった。


「あなたが、魔力操作の鍛錬を真面目に受けていれば、エレオノーラがあの選択を取ることもなかった・・・そうは思いませんか?私はそこがどうしても許せなかった・・・なので、この場である程度使えるように特訓しようと思います」

「こっこの場で・・・」

「えぇ、私が"これ"に傷を作るので、あなたは私が指定した傷だけを治療してください。先ほどのように一度に全て治療するのはなしです。それをした場合、またやり直してもらいます。とりあえず、5回成功までやりましょうか」


ようやくミスティーアの方を向いたアルフレードが笑顔でそう告げると、黙っていた男たちが再び声を荒げる。


「冗談じゃねーぞ!!なんでその聖女の練習台に俺らがならないといけねーんだっ!」

「っそうだ!知っていることは全部話すって言ってんだろ!・・・ぐぁぁぁぁっっっ!」


騒いだ男に対し、アルフレードが傷口に押し当てていた棒を更に奥へと押し込む。


「エレオノーラに手を上げておいてよく言う・・・これは個人的な私の報復です。事情聴取はこれが終わった後に尋問官が来ますのでその人に詳しい話はしてください。・・・さて、それでは始めましょうか」


狂気すら感じるアルフレードの笑顔を、ミスティーアは震えながら見上げたーーー。


「お前、あれはやり過ぎだぞ」

「そうですか?結果的に魔力操作が少しまともになったので良かったではないですか」


ミスティーアへの罰、もとい魔力操作の特訓は無事にミスティーアが5回連続で部分治癒に成功したことで終わりを迎えていた。

ミスティーアは終わった瞬間に気を失い、早々に退出。未だに牢の中にいるアルフレードはどこか満足気に笑ってみせた。

そんな友人の姿にため息をつきつつ、ファルロスは横の男達に目をやる。

切りつけられ、癒され、また切りつけられる・・・何度も繰り返されたその行為に男たちも気を失っていた。

心の中で同情しつつアルフレードに視線を戻すと、アルフレードの手元にはヒビの入ったブレスレットがあった。

アルフレードはそのブレスレットを黙って見つめる。


「・・・今は教会に来る数十人の治療をすればいいだけですが、今後国に厄災が降りかかった時、その規模は今の数百、下手したら数万倍に膨れ上がります。そうなった時、今の全回復の魔法を全員に使っていれば必ず限界が来ます。そうならない為にも、これからはちゃんと魔力操作の鍛錬をさせてくださいね。それが、ミスティーア様のためにもなります」

「・・・分かっている」


ファルロスがアルフレードの言葉に少し拗ねたように返事をすると扉が外からノックされた。


コンコンコン・・・


「殿下、尋問官の方が到着されました」

「分かった。アルフレード、もう入ってもらっていいか?」

「いえ、これの意識を戻してから少しやる事が残っているので、もう少し待っていただけますか?準備が出来たら私がお呼びしますので」


そう言いながら、アルフレードは冷たい視線を男達に向ける。

その様子を見たファルロスは今日何度目か分からないため息をついて扉の方へ向かった。

そして、扉に手をかけた所でアルフレードの方を振り返る。


「じゃぁ俺はもう行くけど、やり過ぎるなよ。あと!今回のミスティーアへの対応はエレオノーラ嬢のことがあったから特例的に許したものだ!次はないし、俺の目がない所でミスティーアに何かしたらお前だろうと許さないからな」

「肝に銘じておきます」


こちらに背を向けたまま返事をするアルフレードの背中をしばらく見つめた後、ファルロスはそのまま部屋を後にした。


「さて、そろそろ起きてもらいましょうか」


扉が閉まる音を確認したアルフレードはすっと手を上げる。

すると男たちの周りに魔法が展開され、気を失っていた男たちが目を覚ました。


「あっ・・・ここは・・・」

「残念ながら、まだ牢の中ですよ」

「ひっひぃぃっっ・・・」


完全にアルフレードに怯えきった部下の男は涙を流しながら歯をガチガチと鳴らした。

ボスの男はまだ正気を保っているようで下からアルフレードを睨みつける。

そんな男の視線をまるで気にせず、アルフレードは牢の外に出ると壁に立て掛けてある剣へ向かって歩いていった。


「今、尋問官の方が到着しました。これから事情聴取が始まりますが、私に宣言してくださった通り、素直に全部話してくださいね」

「・・・」


壁に立て掛けられた剣の柄を握るとアルフレードは早々に牢の中へ戻ってきた。


「何をする気だ・・・」

「いえね?私、到着した時に見えたんですけど・・・貴方、その手でエレオノーラに触れようとしましたよね、しかも明らかに下卑た意図を持って」


剣先を遊ばせながら話すアルフレードの言葉に男の全身から冷や汗が出た。


「エレオノーラに怪我をさせたそちらの方も許し難いのですが・・・それよりも私のエレオノーラに最低な意図を持って触れようとした貴方のことが、私はどうしても許せないんです」


遊ばせていた剣先を床に付け、それを引きずりながらゆっくりと差し出された男の手首の横まで運ぶ。

男は、剣先から視線を動かせなくなっていた。


「貴方を殺すことは殿下に止められています・・・ですが・・・尋問に手は必要ないですよね?」

「まっ待ってっ・・・!」


男の言葉を最後まで聞くことなく、アルフレードは剣を振り上げた。


「止血はしてあげるので、安心してください」


そう言って剣を振り下ろすアルフレードの顔は今まで一番冷たい顔をしていた。


ザシュッ・・・ーーー。


静かになった牢から出たアルフレードはそのまま部屋の扉へと向かい、内側からノックをして外の騎士に声を掛けた。


コンコンコン


「お待たせしました。こちらの用事は終わったので、後はよろしくと尋問官へお伝えください」

「はっ!」


騎士によって施錠された扉が開かれると、アルフレードは騎士に笑顔で会釈をして部屋を後にした。

地上へと続く階段を上がりながら、アルフレードは自分のズボンの裾に血が着いていることに気がつく。


「あれっ、着かないように気をつけてたんだけど・・・まぁいいか」


気づきはしたものの、特に気にする様子もなくアルフレードはズボンのポッケからあのブレスレットを取り出した。

手の中のそれを見つめ、ぎゅっと握りしめる。


「これも新しく作り直さなきゃな・・・次は誰かに渡したりしないように外せないように魔法をかけるか・・・?」


アルフレードは独り言を零しながら階段を上がっていく。


「エレオノーラの従者もちょっと手を加えないとな。以前は侯爵にそこまで口を出されるのは~って渋られたから結局何もできなかったけど、今回の一件があったし、次は何も言ってこないでしょ」


気が付くとアルフレードは階段を上がりきり、地上へと戻ってきた。

アルフレードが地下へ行くときはまだ夕日でオレンジ色に染まっていた空が、今は暗い夜空となり月明りがアルフレードを照らした。

月明りに気が付いたアルフレードは足を止めてしばらく月を眺めていたが、やがてふっと笑って大きく伸びをした。


「んん~っ流石に今回は疲れたな」


しっかりと背中を伸ばしきると、ストンと脱力してアルフレードは再び歩き出した。


「さて、明日も朝からエレオノーラの所に行くし早く帰ろう・・・明日こそ目を覚ましてね、エレオノーラ」


月に願うようにそう零すと、アルフレードは足取り軽やかに王城を後にしたーーー。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
初連載感謝&無事完結お疲れ様です^^ エレオノーラがとりあえず無事で本当に本当によかったです! もしエレオノーラの救出が間に合わず命を落としていたらアルフレードが疑似厄災化して周囲を混乱に陥れそう(…
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