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全11話。

今日から4日間、毎日数話ずつ投稿します。

楽しんでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

「面倒臭いことになりましたわ・・・」

「ファッファルクロード様・・・私たち・・・どうなってしまうのですか・・・?」


隣で今にも泣きだしそうな少女を見つめ、エレオノーラは数刻前の自分を呪ったーーー。


数刻前。

侯爵令嬢であるエレオノーラ・ファルクロードは学園から帰れなくなっていた。


「馬車が来れないというのはどういうことです?」


馬車乗り場で自分の迎えを待っていたエレオノーラは、何故かその身一つで走ってきた従者の言葉に耳を疑う。

額に汗を滲ませ肩で息をしていた従者は、息を整えて事の経緯を簡単に説明した。


「それが、学園に向かう途中で馬車が脱輪してしまったんです・・・すぐに修理屋は呼んだのですが・・・馬車の構造が複雑で直すのに手間取っている状況で・・・」


聞けば、エレオノーラの迎えに行くために馬車を走らせていたら、車輪が脱輪したしまったらしい。幸い、乗っていた御者や従者に怪我はなかったが、特注の馬車だったためその場で車輪を付けるだけ、とはいかなかった。

そこで、馬車のことは御者に任せ、エレオノーラに状況だけでも知らせようと走って学園まで来てくれたようだ。


「それなら、町の馬車でも呼べばよかったじゃない」


エレオノーラがそう言うと、従者は首を左右に力強く振る。


「それはできません!旦那様からエレオノーラ様が乗ってもよい馬車は指定されております!町中の馬車など、お嬢様を乗せた瞬間に私の首が飛んでしまいますよ!」


本気で殺されると思っているのか、恐怖に顔を歪ませている従者を見て、小さなため息がこぼれる。


「お父様の過保護もどうしたものかしらね・・・」

「お嬢様の場合、旦那様もそうですが・・・」


従者が何かを言いかけると、突然後ろから声をかけられた。


「どうかされましたか?」


聞き慣れない声にエレオノーラが振り返ると、そこには小柄な女子生徒が立っていた。

少しの間その少女を見つめ、それが誰なのか分かるとエレオノーラは思わず眉をひそめた。


「・・・あら、聖女様ごきげんよう」


聖女様と呼ばれた少女はその場でカーテシーを行うと、すぐにエレオノーラへ笑顔を向ける。


「聖女様だなんて・・・ミスティーア・ターブルと申します。どうぞミスティーアとお呼びください」


ミスティーア・ターブル。

先代の聖女様が亡くなられた後、現代の聖女として覚醒した元庶民の娘だ。

聖女の力は先代が亡くなることで次の代へと引き継がれるとされており、先代の聖女様が亡くなられた後、国は聖女の力を引き継いだ者を探し続けた。

そしてそんな中発見されたミスティーアだった。

その後、国に保護されたミスティーアはターブル伯爵家の養子となり、今は貴族としてエレオノーラと同じ学園に通っている。

小柄な体格にやわらかくカールのかかったホワイトブロンドの髪を腰の位置まで伸ばし、丸くぱっちりとした瞳はピンク色がかっている。


(本当に、殿方が好きそうな容姿をされていますね)


噂通りのその姿に、エレオノーラは思わず内心で毒づいた。


「ミスティーア様は現代の聖女様なのですから、“だなんて”と謙遜なさらないでください。私はエレオノーラ・ファルクロードと申します。お会いできて光栄ですわ」


いつも持ち歩いている扇子を屋敷に忘れてしまったことを後悔しつつ、エレオノーラはミスティーアへ笑顔を向ける。

出来れば話もせずに立ち去りたかったが、状況的にそれは叶わなかった。


「ありがとうございますっ!ところで、何かお困りのようですが何かあったのですか?」

「いえ、迎えの馬車にトラブルがあっただけですわ。ミスティーア様はお気になさらず、お帰りになって・・・」

「えっ!大変じゃないですか!どうしましょう・・・ここでずっと待つわけにはいきませんよね・・・」


遠回しに「失せろ」と伝えようと試みるが、聖女様には汲み取ってもらえない。

何かぶつぶつと言いながら考え込み始めたミスティーアを見て、エレオノーラはこの場をどう切抜けるかを考えた。

ここからどう帰宅するかを考えるにしても、まずはこの聖女様を何とかしない限りはゆっくり考えることも出来ない。


「そんなことありませんわ。待っていれば別の迎えが来るでしょうし、学園に戻って図書館で勉強でもしていようと思います」


エレオノーラは従者に目配せをすると、いつもより早歩きで学園へと向かった。

しかし、エレオノーラがミスティーアとすれ違った次の瞬間、ミスティーアはぱっと顔を上げる。


「もしよろしければ私の馬車で一緒に帰りませんか?」


エレオノーラの方を振り返りながら、ミスティーアは少し声を張ってそう言った。

その言葉に、エレオノーラは学園へと進めていた足を止めざるを得なかった。


(あぁ…なんとも最悪な提案ですね…)


何故初対面の相手にそんな提案ができるのか、エレオノーラにはミスティーアの行動が理解できなかった。足を止めたまま動かないエレオノーラを従者が不安そうに見つめている。

しばらくして、エレオノーラは小さくため息をついてからゆっくりと振り返った。


「・・・はい?」

「私が帰る馬車で、ファルクロード様も一緒にお帰りになりましょう!幸い、屋敷の方向は同じですし、ファルクロード様のお屋敷に寄って帰るくらい大した寄り道にはなりませんわ!」


(なんで私の屋敷の方向を知っているのかしら・・・ちょっと気持ち悪いわ・・・)


エレオノーラが心の中で引いていると、そんな事は知りもしないミスティーアがぐんぐんと近づいてきてエレオノーラの右手を両手でしっかりと握った。

突然手を握られ、エレオノーラはビクッと肩を揺らす。

握られた手をじっと見つめ、恐る恐る顔を上げると名案だと言わんばかりの顔でミスティーアがエレオノーラを見つめていた。

エレオノーラは思わず1歩後ろに後ずさる。


「・・・お気持ちは嬉しいのですが、私は・・・」

「ヴィラルーシェ様にもいつも良くしていただいてますし!その恩返しです!」


断りを入れつつ握られた手を振りほどこうとしたエレオノーラだったが、ミスティーアから出てきた人物の名前に思わず動きを止める。


「・・・確かに、アルフレード様と最近仲良くしていらっしゃるようね」

「はい!ファルロス様にご紹介していただいてからずっと仲良くしていただいています!今日も三人でランチしましたの!」


嬉しそうに話すミスティーアと対象的にエレオノーラの顔は暗く落ちていった。


アルフレード・ヴィラルーシェ。

ヴィラルーシェ公爵家の長男で、柔和な性格と頭のキレの良さ、おまけに王族にも引けを取らない魔法量と魔力操作の精密さを有しており、次期国王の側近として期待されている学園の星だ。

そして、そんな期待の星はエレオノーラの婚約者でもあった。


「ファルロス王太子殿下もご一緒に・・・それは楽しそうですわね」

「はい!お二人ともいつも笑顔で話を聞いてくださるので、とても楽しいです!」


屈託のない笑顔でそう話すミスティーアを黙って見つめるエレオノーラの後ろ姿を従者は心配そうに見守る。


ファルロス・トルタディはエレオノーラ達のいるトルタディ王国の第一王子だ。

目鼻立ちのはっきりとした顔立ちに王族にしては裏表のないさっぱりとした性格をしており、エレオノーラとアルフレードとは同い年で小さい頃から交流のある人物でもある。

ミスティーアは聖女としてターブル伯爵家に養子になった際、年齢や聖女という立場を鑑みてファルロスの婚約者となっていた。


(この屈託のない笑顔にファルロス殿下や・・・アルフレード様もやられてしまったのかしら)


ミスティーアの笑顔を見つめながら、エレオノーラはミスティーアが学園に編入してきたばかりの頃のことを思い出していたーーー。


「しばらくの間、学園で話かけるな・・・ということですか?」

「うん、簡単に言えばそうだね」


ヴィラルーシェ家の屋敷にある中庭で、テーブルに置かれたお菓子を囲みながらアルフレードは淡々とエレオノーラに告げた。


「最近、ファルロス殿下の婚約者として聖女様が学園に編入してきただろう?それで、殿下から貴族の暮らしにも慣れていないだろうから一緒に気にかけてやってほしいと頼まれてね。当分は三人で行動することになったんだ」


紅茶の入ったカップをゆっくりと口元に近づけながら話すアルフレードの姿をエレオノーラは黙って見つめる。


「色々と確認したいこともあるし、当分は学園で僕を見かけても話しかけないでいいから」

「・・・分かりました」


アルフレードはエレオノーラの返事を聞き満足気に微笑み、紅茶に口をつけたーーー。


アルフレードからそう言われてから、エレオノーラは忠実にその約束を守り続けていた。しかし、ミスティーアの編入からしばらく経った頃からある噂が流れ始める。


「いつも三人で行動しているが、エレオノーラ様は呼ばれていないのか?」

「そういえば、最近アルフレード様とエレオノーラ様が一緒におられるところを見ていない気が・・・」

「えっ、エレオノーラ様って捨てられたの・・・?」

「「「・・・もしかして・・・」」」


『アルフレード様は聖女ミスティーアに恋をしている』


噂が噂を呼び、最終的に行き着いたのその噂は、最初こそただの噂話と思われていた。

しかし、ミスティーアが学園に馴染んでからも続く三人の交流に噂はどんどん真実味を増していく。

そして、学園中に広まったその噂は遂にエレオノーラの耳まで届いてしまった。

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