第四話 登校という通勤
第五話は明日(5月30日)に投稿せず明後日(5月31日)に投稿します。理由としてカクヨムと投稿時期を合わせるためです。
玄関を開けて、外に出た。
ひんやりとした朝の空気が肌に触れる。その瞬間、自分の体がどれほど変わったかを改めて実感する。
すれ違う男たちの視線が、明らかに違った。
いや、目が合ってるわけじゃない。
視線は――俺の胸に向かっていた。
(……そんなに見なくても)
初めて受ける種類の視線に、気分がざらつく。
目を伏せても、やはりどこか落ち着かない。
通り過ぎた男の一人が振り返っているのが、視界の隅でわかった。
胸元に目を落とす。制服の上からでもはっきりとわかる。
俺の胸は、女子高生にしては少し大きめのCカップ。
スカートや髪の毛は気にならなかったくせに、この膨らみだけは、どうしても異物のように感じる。
(これ、重いな……)
肩が凝る。ブラが締め付ける。歩くたびに揺れる感覚。
服が擦れて敏感になる肌。
ただの肉の塊だったはずなのに、妙に自分じゃない感覚がある。
(……でも、それ以外は、そんなに変わらない)
そう思いながら、俺は最寄りの駅まで歩いた。
朝の通勤ラッシュが始まっていて、ホームには人が溢れている。
「いつも通りの登校だ」――そう思って、電車に乗り込んだ。
だが、それは甘かった。
電車のドアが閉まり、車内は一気に圧縮された。
体が他人の体に押しつけられ、逃げ場がない。
それだけでも不快なのに、突然――
(……ん?)
腰に触れる、妙な感触。
痴漢。
直感的にわかった。
男の手が、明らかに“探る”ように当たっていた。
普通の女性はここで恐怖を感じるだろうが俺は違う。
俺はその手の主を振り返り、鋭く睨みつけた。
目が合った瞬間、相手の男が鬼を見たかのようにビクリと体を引いた。
やがて、手は離れ、少し距離ができた。
(……元社畜をなめるなよ)
女子になっても、俺は俺だ。
恐怖を感じないどころが、怒りが湧いた。
ようやく目的の駅に着くと、俺は人混みを抜けて地上へ出た。
目的地は――埼玉総合大学附属高等学校。
そして、その中にある“研究室”だ。
校門を抜け、校舎の案内図に目を走らせながら進む。
制服姿の生徒たちがちらほら見えるが、誰も俺を不審そうに見ることはなかった。
“新入生”という設定は、どうやら問題なく機能しているようだった。
(……本当に、普通の高校なんだな)
でも、俺が行くのは“普通”ではない場所。
校舎の奥にある、少し離れた別棟の一角。
昨日教えられた通りの部屋番号を見つける。
白い扉の横には、小さく「共同研究室」とだけ書かれていた。
手を伸ばす。
ノブに触れる。
この扉の向こうに、俺の“実験生活”が待っている。
(行くしか、ないか)
小さく息を吸って――俺はドアを開けた。