第三話 JKとしての和紀
翌朝、目覚めるとまた昨日と同じ見慣れない天井が広がっていた。
いや、天井は変わってない。ただ、それを見上げている自分の体が、まだ女のままだというだけの話だ。
昨日の出来事が夢じゃないことを、体の重さや声の高さで何度も確認してしまう。鏡を見れば、美少女が俺の顔を真似して驚いている。
しかも最後に「いやぁ〜楽しみですね!ピチピチのJKライフ!」と言われて信じるやつがいるか?まずいないだろう。俺もそうだ。しかも、もし通うことになったら普通に犯罪者だ。流石に通うことはないだろう。
そんな考えを裏切るように、研究室から一本の電話がかかってきた。
「伊藤さん、来週から学校に通っていただく準備が整いました」
「……は?」
昨日聞いた、悪い冗談みたいな話の続きが本当に進行していた。
「研究に必要なデータを長期的に取るためには、ある程度“社会的な場”にいる必要があるんです。なので、研究室が連携している高校で生活していただきます」
俺は思わず口を開けたまま、固まってしまった。
社会的な場。
人間関係。
クラスメート。
教師。
「学校」――あの“閉じられた社会”に、今さら戻れというのか?
「……最悪なんですが」
正直な気持ちが、口からこぼれた。
「ご安心ください。通っていただく『埼玉総合大学附属高等学校』は、あくまで普通の高校です。研究関係者が通っているような特別な学校ではありません。でも、研究室との繋がりは深いので、何かあればすぐにフォローはできます」
「俺のこと、知ってる人は……?」
「今のところ、あなたと研究室関係者以外には伝えていません。新入生として扱われる予定です」
つまり、他人には“伊藤和紀”としての過去は一切知られず、“女子高生”として新しい人生を演じろということらしい。
「ちなみに……これが新しい名前です。“伊藤 花月”さん」
同じ読みだけど、まるで別人の名前のように感じた。“和紀”という男の名前が、遠く離れていく。
それが寂しいのか、軽くなったのか、自分でもよくわからない。
午後になって、荷物が届いた。制服の入った箱だった。
箱を開けた瞬間――スカート。ブレザー。白いブラウス。そして、リボン。
まぎれもなく、“女子高生の制服”だった。
手に取った時、ようやく実感が湧いてきた。
「ああ、俺……本当にJKになったんだな」
普通の人なら、たぶんこういう瞬間に抵抗感やためらいを感じるんだろう。
でも、もうそんな感情すら湧いてこなかった。
驚くほど、何も感じなかった。受け入れるしかない――それだけだった。
下着から始まって、制服の一つひとつを身に着けていく。
鏡に映る姿は、どこからどう見ても、ただの高校二年くらいの女子生徒だった。
心は、ついてきていない。
でも体は、もうとっくに女だ。
靴を履いて、玄関のドアの前に立つ。
ドアノブに手をかける。
この扉を開ければ、世界は“花月”として俺を見る。
……それでも、俺は、行かなきゃいけないんだろ?
深呼吸を一つして、俺はゆっくりと玄関を開けた。
その瞬間――
まったく新しい人生が、音もなく、始まった。