第二話 トラブルと急展開
「……それ、本当ですか?」
「はい……」
俺は戸惑いながら答えた。薬って普通、2錠ぐらい飲むものじゃないのか?
「箱の中に入っていた説明書、ちゃんと読まれました?」
「いえ、読んでません……」
「……バカじゃないの? 死ぬ気ですか?……って、ごめんなさい!つい本音が……」
「……大丈夫です」
実際、死ぬつもりだったし――と、内心思いながらも、ふと疑問が浮かんだ。
「あの……今のところ、体調に異常はないんですが……」
そう。どこもおかしくないのだ。副作用もないし、気分も悪くない。
普通なら、分量を間違えたら具合が悪くなるものじゃないか?
「うーん、確かに体調には問題ないと思います。でも、問題はそこじゃないんですよね」
「……というと?」
「1錠だけだと、効果は5ヶ月。でも、2錠飲むと……1年間、女の子のままになってしまうんです」
「……え?」
言葉がうまく飲み込めなかった。
じわじわと焦りがこみ上げてくる。
死ぬことすらできなかった上に、これから1年間も女の体で生きるなんて……どうしろっていうんだ。
「……その、これからの生活って、どうすれば……?」
「えっと……そうですね、とりあえずこちらで対応を考えますので」
「ありがとうございます……こちらの不注意なのに」
「いえ、電話できちんと伝えていなかったこちらにも落ち度がありますので。それでは、後ほどまたご連絡しますね」
そう言って、彼女は電話を切った。
電話の音が途切れると、部屋の中にしんと静寂が戻ってきた。
胸のあたりの重さが、今はやけにリアルだ。
俺は男だ。……いや、“元”男だ。
女の暮らしなんて、まったくわからない。
でも……男と女で、そんなに生活って違うか? そう思って考えてみた。
思いついたのは――「生理」。
正直、それくらいしか思いつかない。
「女の人同士の人間関係が複雑」とか聞いたことはあるが、よく知らない。
そもそも、人間関係なんて気にする場面はない。
会社にはもう行かなくていいし、外出も買い物くらいだろう。
生活費も研究室が出してくれると書いてあったし、なんとかなるんじゃないか――
……そんなふうに、少し楽観的になっていた。
だが、それは大きな間違いだった。
数時間後、研究室から再び電話がかかってきた。
「はい」
「こんにちは、伊藤さん。こちらの準備が整ったので、ご連絡差し上げました」
「……準備、ですか?」
何のことか、まったく心当たりがない。俺は困惑したまま聞き返す。
「準備って……何のですか?」
「あっ!すみません、お伝えするのをすっかり忘れていました! 来週から、研究室が提携している高校に通っていただくことになりました!」
「…………は?」
「いやぁ〜楽しみですね!ピチピチのJKライフ!」
俺は再び、耳を疑った。