番外編:北海道旅行6 帰宅
翌朝。
花月は部屋で顔を洗い、まだ眠るような静かな館内を抜けて、外の風に当たるためにホテルの玄関を出た。
北海道の冬。朝でも空気は凛として冷たく、頬を刺すような寒さが逆に心地よく感じられる。
(……やっぱ、いいな)
吐いた息が白く浮かぶその中で、花月はしばらく無言で空を見上げていた。
しかし、今日でこの北海道旅行も終わりだと考えると、どこか寂しさが胸にこみ上げてくる。
そんな時だった。
「あれ? 花月ちゃん?」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこにはスポーツウェア姿の詩織がいた。
「おはよう、詩織」
「おはようー。……何してるの?」
「ただ、北海道の風に触れてた。気持ちいいから」
詩織は小さく笑って、「なんかロマンチックだね」と言った。
「それより、詩織こそ何してんの?」
「これからランニングだよ。一緒に走る?」
いつも通りの元気な声で言ったあと、詩織がふと思い出したように言った。
「……って、そうだった。花月ちゃん、運動苦手だったっけ」
「…異常なほどね」
二人は少し笑って、他愛のない会話を交わした後、詩織はランニングへと走っていった。
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1時間後。ロビーに降りると、他のみんながすでに集まっていた。
勇斗、夏美、琉生、流麗――そして、ランニングから戻ってきた詩織もすぐに合流した。
そのままホテル内のレストランで最後の朝食を楽しみ、チェックアウトの後、荷物を持って空港行きのバスに乗り込んだ。
バスが走り出すと、勇斗がふと口を開いた。
「これで終わりって考えると……なんか寂しいね」
すると詩織が
「でも楽しかったからいいんじゃない?」
と返し、流麗も
「温泉も気持ちよかったしね~」
と言った。
その言葉に、花月と夏美は顔を見合わせて、微妙な笑みを浮かべながら、
「そうだね……」と苦笑いで返した。
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やがてバスは空港に到着。
建物に入る前、花月はふとみんなから少しだけ離れて、人気のない場所へと足を運んだ。
冷たい空気を大きく吸い込むと、口の中がピリリと刺激された。
それでも、空気は澄んでいて、美味しかった。
そして――
「たのしかったなぁ……」
ふと、言葉が口からこぼれる。
そのまま、空港へと歩き出した。
帰りの飛行機では、行きと同様、花月の隣に詩織が座っていた。
「いきなりでごめんね」
「え?」
花月は一瞬言葉の意味がわからず詩織を見つめた。
「こんな大きめの旅行に誘って……正直、困ったよね?」
ようやく意味がわかり、花月はゆっくり首を振った。
「全然困ってないよ! なんなら感謝してるぐらいだよ!」
その言葉に、詩織はパッと明るい笑顔を浮かべた。
「ありがとう……!」
そして、少し照れくさそうに続ける。
「これまでね、友達ができたことがなくて。どう誘えばいいのかもよくわからなくて。今回の誘い方、あとで考えたらいきなりすぎたかなーって」
花月はそんな詩織の手をそっと握った。
「私は、詩織が誘ってきてくれて嬉しかったよ。ほんとに」
詩織は驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「それは……よかった……!」
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1時間半の空の旅を経て、一行は羽田空港に到着した。
そこで軽く談笑と別れの挨拶を交わしながら、北海道旅行のメンバーは、それぞれの帰路へと散っていった。
花月の自宅。
荷物を置いてベッドに横になり、天井を見つめながら思い返す。
温泉、スキー、朝の寒さ、詩織との会話、みんなとの笑顔――
「楽しかったなぁ……」
ぽつりと呟いたその顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
北海道の風が残した記憶は、温かく、そして深く胸に残っていた。
これで「社畜、JKになる」は一旦終了させていただきます。理由として新しい物語を書きたくなったためです。なので新しい物語も一区切りついたらこちらの方を再開させていただきます




