第十五話 告白の噂
翌朝――
教室に入ると、いつもとは明らかに違う空気が流れていた。
(……ざわざわしてる?)
まるでクラス全体が何かを噂しているようなざわつきだった。俺――伊藤花月が登校した瞬間、数人の女子がヒソヒソと顔を寄せ合い、男子は妙な視線をこちらに向けてくる。
(なんだ、またか?)
うっすらとため息をつきながら席に着くと、すぐに詩織と夏美が近づいてきた。
「おはよう、花月ちゃん!」
「……おはようございます」
いつものように挨拶を交わした直後――
「で? 勇斗と付き合ってんの?」
詩織のあまりにもストレートな問いに、思わず言葉が漏れた。
「は……?」
「だってさ、噂になってるんだよ。昨日、勇斗に告白されて、OKしたって」
(……誰がそんなこと言い出した)
まわりの話し声に耳を傾けると――
「花月って見た目完璧だよな」
「しかも胸デカいし」
「時々、男前なとこがいいんだよ」
「そりゃ勇斗が告白するのもわかるって」
「あれで断る理由ないだろー」
そんな会話が飛び交っていた。
たしかに、勇斗はイケメンで学校の有名人。普通の女子なら舞い上がって即OKするだろう。だが――
(俺は違う)
「断ったよ。……付き合ってない」
俺がハッキリと否定するも、クラス中の反応は「え?」という顔だった。明らかに信じていない。
「でも……花月がOKしたって、あの場にいた親衛隊の何人かが言ってたし……」
「……マジかよ。信じてたのに」
その瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。
「ちょ、聞いて!聞いて!!」
駆け込んできたのは、親衛隊の一人。昨日の放課後、いなかった子だった。
「さっき勇斗に直接聞いたんだけど――」
息を切らせながら、彼女は叫んだ。
「フラれたって!!!」
教室内が一瞬で静まり返った。
「……え?」
「……マジで?」
「うそ、花月ちゃんが……?」
「でも、あの親衛隊の子たち……」
クラスメートたちが混乱する中、詩織と夏美は堂々とした顔でうなずいていた。
「ほら、言ったでしょ?」
「最初から花月さんは否定してた」
しかしその静寂を破るように――
教室の隅に集まっていた親衛隊たちが、何やらコソコソと話し始めた。
ひそひそ声が重なり、時折こちらを睨むような視線が飛んでくる。
(……これは、ろくなことにならない)
嫌な予感が、背中をじっとりと冷やしていく。
(あいつら、また何か企んでる)
告白された上にフラれたという事実。それを知ってなお、親衛隊が動くということは――
“次の騒動”の火種が、すでに撒かれ始めているのかもしれなかった。