表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

第十四話 愛の告白

秋になった。


夏の熱気がすっかり去り、木々は紅や黄の色を纏い始めた。季節の移ろいに合わせるように、学校の空気もどこか落ち着きを帯びてきている。


そんなある日の放課後――


俺、伊藤花月は校舎裏へと向かっていた。


その理由は、少し前の放課後に遡る。



いつものように詩織と夏美と一緒に帰ろうとしていたとき、ふと下駄箱に何かが挟まっているのに気づいた。


「……ん?」


手紙だった。


白い封筒には何も書かれていなかったが、誰宛かは明白だった。俺の下駄箱に入っていたのだから。


詩織に見つからないようにそっと鞄にしまい、家に帰ってから開封した。


中にはたった一行だけ。


「今週の金曜日の放課後、校舎裏に来てください」


シンプルすぎる文面に、思わず苦笑した。


(今どき……こんなストレートな呼び出し方をするやつ、まだいたんだ)


別に怖さはなかった。ただ、どこか懐かしさと胡散臭さが混じる感じ。



そうして、俺は今日ここに立っている。


校舎裏に到着すると、そこにいたのは――


「来てくれたんだね」


柔らかな笑顔でそう言ったのは、西島勇斗にしじま はやと


学年でもそこそこ名の知れた有名人だった。


噂では――高身長、イケメン、成績優秀、スポーツ万能(詩織ほどではないが)、そして普段は優しいのに、いざという時にかっこいい一面を見せるという、まさに少女漫画から出てきたような存在。


さらには、実はちょっと不器用という“ギャップ萌え”まで完備されており、女子からの人気は絶大。その彼が、俺を呼び出した。


「……手紙に書かれてたから来ただけ」


冷たくもないが、淡々と返す俺に、彼は少し笑って言った。


「優しいんだね」


そして、ふっと表情を真剣に変えた。


「――本題に入ろうか」


俺はそれを止めた。


「ちょっと待って」


「……え?」


勇斗が戸惑う中、俺は静かに30秒間、時計を見つめる。


すると案の定――


「キャッ!」


「わわっ、ちょっと押さないでよ!」


「こら!タワーが崩れるっ――!」


勇斗の背後の木の陰から、複数の女子たちが崩れ落ちるように現れた。


(……やっぱり)


おそらく、彼の親衛隊。


彼が俺の下駄箱に手紙を入れたところを偶然見つけ、以後監視。今は木の後ろでこっそり様子を見ていたが、俺が時間を稼いだことで限界を迎えたのだろう。


もっとも、俺から見たら、殺気でバレバレだった。


勇斗は小さく溜息を吐きながら、彼女たちに向き直る。


「……ごめん。少しだけ、席を外してくれないかな」


親衛隊たちは不満げに、そして俺を鋭く睨みつけながらその場を離れていった。


(……睨まれても効かないけどね)


そして改めて、勇斗が俺の前に立った。


「じゃあ、改めて――」


彼は深く息を吸い、静かに言った。


「……僕と、付き合ってください」


手を差し出す。真っ直ぐな瞳だった。


だが、俺は迷いなく、ただし演技で“迷っているふり”をしてから言った。


「……ごめん。無理」


「……どうして?」


「……あなたと、ほとんど関わりがないから。急に言われても、困るよ」


言葉は冷静だった。


でも、それは嘘。


本当は――俺の心は男だから。男にまったく興味が湧かない。ただそれだけだった。


勇斗は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑って頭を下げた。


「わざわざ時間を作ってくれてありがとう。……迷惑、かけたね」


そのまま彼は背を向け、静かに歩き去っていった。


残された俺は、風に揺れる落ち葉の音だけを聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ