番外編:体育祭1 化け物と一般的な者と皆無
ネタが切れたため一旦ここで番外編を入れておきます
九月の終わり。
朝のホームルームで、担任がやけにテンション高く言い放った。
「はい、来月は体育祭です! 今日から本格的に準備に入ります!」
(……終わった)
俺――花月は、瞬時に悟った。
この学校の体育祭は、ただの行事ではない。生徒会主導で運営され、クラス対抗戦で本気の勝敗が問われる、“全校イベント”だ。
当然、練習や準備も本気。
放課後、グラウンドにはすでにクラス別の集まりができていた。俺たちの1年1組も、先生と実行委員の指示でゾロゾロとラインに並んだ。
「じゃあまずは、100メートル走のタイム測定からやりまーす!」
俺の心が死んだ。
「名前を呼ばれた人は順にスタートラインへ!」
クラスメートが次々と走っていく。
「遠山夏美!」
「はい」
女子の姿で登場した夏美が、颯爽とスタートラインへ立つ。
パンッ!
スタートの合図とともに、彼女は軽やかに走り出した。無駄のないフォームで駆け抜け、タイムは14秒ジャスト。
(さすがに、あの体でこれは速いな……)
クラスが「おお〜」と沸く中、次に呼ばれた名前に一層の拍手が加わった。
「田中詩織!」
「よーし、いくよ〜!」
元気よく返事した詩織が走り出すと――もはや風だった。
結果、12.1秒。
並んで走った女子の開いた口が塞がらない
先生も「えっ……中学生の記録かこれ」とボヤくほど。
(……化け物)
だが、そのあとに俺の名前が呼ばれた。
「伊藤花月!」
死刑宣告のようだった。
「……はーい」
トボトボとラインに立ち、気合を入れるふりだけしてスタート。
パンッ!
ダッ……
バタ……ッ
ゴッ!
「うわああああ!!」
周辺が悲鳴を上げる
開始数メートルで足がもつれ、地面にダイブ。
その場が一気に静まり返る。
「タイム、計測不能です……」
俺は土を噛みながら、遠い目をした。
(もしかして、俺……学年で一番、運動音痴なんじゃ……)
「……花月ちゃん、ダイナミックだったね!」
詩織が笑いながら手を差し伸べてきた。夏美もそっとティッシュを渡してくる。
「大丈夫……? すごい、派手だったけど」
「死にかけたよ」
体育祭の出場種目は、成績や希望を加味して決められる。
当然、俺は走る系・跳ぶ系・投げる系すべてから外され、最終的に「借り物競走」と「玉入れ」に配属された。
(……人間、向き不向きってあるよな)
その後の準備も大変だったが、詩織はチームのリーダー格として活躍しまくり、夏美もサポート役として的確に動いていた。
俺? さっき転んだせいで見学させられることになったよ。
そんな中でも、少しずつみんなとの距離は縮まっているような気がした。
夏美は少しだけ表情が柔らかくなったし、詩織は「運動できない花月ちゃん可愛い!」と訳の分からないことを言いながら笑っていた。
(まあ……こういうのも、悪くないか)
そう思えた一日だった。
――体育祭本番まで、あと2週間。
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女子100mの目安です。