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第十話 天才の目的

放課後。


俺は教室で荷物をまとめながら、隣の席の少女――遠山夏美に声をかけた。


「ねえ、ちょっといい?」


彼女は眼鏡越しにこちらを見つめ、少しだけ首を傾げた。


「……何か用?」


その声は穏やかで、冷静だった。特別な緊張感もない。ただの「優等生の返事」だった。


(本当に……何も変わった様子はない)


それでも俺は探るように聞いた。


「この学校、どうして選んだの? 他にも行けたはずだよね」


その問いに、夏美はほんのわずかに視線を外し、答えを濁した。


「……まあ、色々あってね」


具体的な理由は語らない。明らかに、何かを隠している。


「じゃあ、伊藤さんは? どうしてこの学校に?」


今度は、逆に質問が返ってきた。


一瞬、心臓が跳ねる。


だが、俺はすぐに微笑み、嘘を口にした。


「親の仕事の都合で引っ越してきたから。たまたま近かっただけ」


「……ふうん」


夏美はそれ以上何も聞かず、視線を下げて本を読み始めた。


(……何も掴めなかった)


結局、彼女の口からは何の情報も得られなかった。


その後、詩織から「一緒に帰ろう」と誘われたが、俺は「ちょっと用事があるから」と言って断った。


向かったのは、例の研究室。


ドアを開けると、案の定――


「だ・か・ら!このハーゲンダッツは私のっ!」


「いや、僕が先に取り出したんです!」


琉生と流麗が、またもや冷凍庫の前でアイスの奪い合いをしていた。


呆れて言葉も出ないが、俺の姿を見つけると、二人はようやく手を止めた。


「お、花月ちゃん。いらっしゃい」


「どうしたの? なんか顔が真剣じゃん?」


俺は椅子に腰を下ろし、静かに切り出した。


「夏美って子のことなんですが、何か知っていますか?」


「んー……名前は聞いたことあるけど、特に噂くらいしか」


「成績優秀で、ちょっと浮いてるくらい?」


琉生が言葉を続けた。


「ただ、それ以上は……別に特別扱いされてる感じでもないしね」


「……もしかして、彼女、性転換試薬の情報を狙ってこの学校に入ったんじゃないかと思いまして」


俺のその言葉に、流麗が眉をひそめた。


「それは……考えにくいな」


「なぜ?」


「だって彼女の入学って、私たちが性転換試薬のデータを初めて内部に出した“前”でしょ。あの時期、まだ公式の情報なんて一切出てない。口外すらしてないもの」


たしかに、俺が最初に見た研究室のサイトも、つい最近まで存在しなかった。


「だから普通に考えたら、情報を得る手段は限られてる。でも――」


「でも?」


「不可能ではない。極めて困難だけど、何らかの裏ルートを使えば、あり得なくはない」


話はそこで途切れた。


俺は立ち上がり、軽く礼を言って研究室を出た。


すると――


(……ん?)


廊下を出てすぐのところで、研究室の壁に何かを貼り付けている人物がいた。


(……あれは)


遠山夏美。


彼女はこちらに気づいた瞬間、はっと顔を上げると、すぐに走り去った。


「……!」


俺は、彼女が貼っていたものをそっと剥がして、研究室に戻った。


「これ……」


琉生に渡すと、彼は眉をひそめながらそれを調べた。


数秒後。


「……盗聴器だ。しかも、かなり高性能」


空気が一瞬で緊張する。


「やっぱり……夏美は、何かを知っている。性転換試薬に関係が……」


俺は心の奥に小さな震えを感じながら、盗聴器を見つめた。


静かな探りは、確かな疑念へと変わった。


この日、俺は一つの確信を得た。


――あの少女、遠山夏美はただの天才じゃない。俺と同じ「何か」を知っている。


そして、それはもしかしたら――“敵”かもしれない。

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