「宇宙人と一緒にバイトする話」
あたし――星美 瑠奈は周囲からマイペースといわれている。
確かに移動教室の際に一人で遅れていったり、授業中も窓の外をみて呆けてて、名前を呼ばれていることに気づかないことがある。
そのせいか趣味もおじいちゃんから教わった登山や一人キャンプになっていった。
一人で自分で計画を立てて、自分のペースでのんびりとした時間を過ごす……それが肌にあっていた。
だから先日、趣味の登山で霧月山を登っていた時、奇妙なものを見つけた。
――キュミュィーン
という金切り声のようなものが聞こえた。
「おーい」という声なら熊だから逃げたほうがいいのだけど、こんな音は聞いたことがなかった。
獣の声とは違う……ハウリングを起こしたスピーカーのような、そんな音だった。
登山道を外れるのは恐ろしかったけど、戻れる範囲だと思った私はその音がした場所に近づいてみた。
そこは周囲の木々が倒れており、奇妙な筒があった。
少し薄暗い森の中、黒ずんだ金属とも石ともつかぬ素材で覆われ、無数の細かな刻み目が渦を巻いたそれは……あたしには巨大な筒として表現できないものだった。
その筒の中から人型の――体表が青白い鉱石のように見える――何かがその筒のそばに倒れていた。
あたしに気づいたようで腕のようなものを持ち上げる、6つある目を光らせている。
「――■■■■」
「えっと……あなたは誰?」
「――■■■■」
「なにかしら……もしかして宇宙人?」
「――え■あ■■……調整、完了」
それは8本ある指のようなものを巨大な筒へと指ししめした。
「翻訳機の調整に手間取った。すまないが私を宇宙船にまで運んで行ってくれないか」
「……え、ええ、いいわ」
あたしが宇宙人さんを持ち上げようとしたがびくともしない。
とても重くてあたしの腕力ではどうしようもなかった。
「……しょうがない。君、この腕輪をその筒の中にいれてくれ」
「そ、それでいいなら……」
私は宇宙人から腕輪を受け取り、筒型の宇宙船にくっつけてみた。
「■■■■」
甲高い声が聞こえた。内容はわからないが宇宙船の姿が揺らめき消え去った。
同時に、どろどろの粘液がその場に残り、宇宙人の方へと這い寄ってきた。
宇宙人の身体をどろどろが包み、膨張と収縮を繰り返して――人間の少女の姿となった。
「ありがとう。私の名前はルナリア――銀河連邦の捜査官だ」
それがあたしとルナリアの出会いだった
†
ルナリア曰く、銀河連邦の犯罪者――アステロッジを護送している最中に予期しない超新星爆発の影響で異次元航行に影響を受けて、地球に不時着したらしい。
地球が存在している銀河は政治的に緩衝地帯とされている区域であり、救援については本国で話し合ってる最中らしい。
逃げ出した犯罪者たちも捕まえないといけないらしく……とりあえず、ルナリアは私の家を拠点にすることにしたらしいのだけど。
「君には迷惑をかけるが、これもこの星の平穏のためだ。わかってほしい」
「そんな危ない人たちがいるなら協力はするけれど……あたしは普通の学生だからできることは少ないわよ?」
「いや、何も知らない惑星に一人で放り出されるよりははるかにましだよ」
ルナリアは現在、人間に擬態しているらしい。
擬態皮というらしいけど……どうみても人間にしか見えないし、重さも変わっていた。どういう仕組みなんだろう?
とりあえず、外国から来た友人を預かってほしいとごまかしておいたけ。
現に、今の姿は透き通るような銀色の髪に、吸い込まれるような青い瞳。身長は低いけど神秘性すらある美少女だ。
声もハウリングを起こしたような声ではなくて、凛とした雰囲気をもってて、小さな貴人って雰囲気だった。
「あなたの協力に深い感謝を、瑠奈」
「そ、そんなにかしこまらないでください」
こうして奇妙な共同生活が始まった。
†
あたしものんびりしている自覚はあるが、ルナリアも大概のんびりしている。
だいたい昼時まで眠ってて、その後、密かに調査に出ているらしい。
そして、割となにもせずに虚空を見つめているときがある。
きっとあたしと一緒でのんびりするのが好きなのだろうと思っていたけど、
「いや、私たちは本来、電磁波で会話するものでね。だから、空中を飛んでいる電磁波や通信用の赤外線を読んで調査しているんだ」
「じゃあ、その疲れで昼まで眠ってるの?」
「いや、それは私がロングスリーパーなだけ」
やっぱり、割とのんびりしている気がする。
鉱物的というか……。
「それにしても、この星でも食べ物に困らないのはありがたいな」
「石に見えるんだけど……?」
「君たちが公園と呼んでる遊技場におちていた石だよ。結構、数があって助かったよ」
そういって口に運んでぽりぽりとかみ砕いていく。
私があっけに取られていると、ルナリアは悲しそうな顔をして。
「……不味い。鉄分がが多すぎる気がするね……」
「あ、不味いのね」
「主成分が悪かったのかもしれない。今度、広域調査をしてみよう」
どんな味なのだろう? 消化のために石を食べる人間がいるとも聞くけど……それとは違うようね?
「……ってそうじゃなくて。人間は石を食べたりしません」
「そうなのかい?私たちは石油や鉱物から構成要素を手に入れるんだけどね」
「それで、そのままだと人間でないことがばれてしまいます」
「それは困るね……。ふむ、人間の集団に溶け込んでいるアステロッジを探すためにも人間社会に対する理解を深めたいね」
ルナリアが真剣な顔をして、顎に手をあて考える動作をする。
おそらく本来の姿なら6つの縦長の目を光らせていると思う。
ピコピコとしているのが考えている姿じゃないかな、とあたしは思った。
「それじゃあ、瑠奈。人間について学びたいからいい方法はないだろうか?」
「え、じゃあ……学校にいくとかバイトをするとか」
「ふむ学習機関や労働場所で実体験をしてみるか……ところで瑠奈、君は働いてるのかい?」
「いちおうキャンプ用品店で働いてるわね」
キャンプ道具のことなら詳しいから用品の名前を覚えるのも楽そうと思って応募したバイトだ。
実際、割と楽に仕事を覚えられたし、新しい道具とかもいち早く学べて趣味と実益を兼ねそろえたバイトになっている。
「なら、私も働かせてほしい。ダメかな?」
「え、ええー……」
ルナリアが自身の胸元に手を当て、こちらを上目遣いに見てくる。
そう見つめられると困るけど……あんまり私も今のバイト場から追い出されるようなことはしたくない。
けど、あたしの目の届かないところで働いてみるのもそれはそれで不安ね……。
あたしはしばらく考えたあと、その提案をうなずくのだった。
†
「瑠奈ちゃんがおすすめしてくれたバイト、物覚えがよくていいね! 一回いえば全部覚えてくれたよ」
「え、ええ……店長さんの役に立ってくれてるならありがたいですね」
あたしはくたびれながら店長さんに返事をかえした。
どうやらルナリアが起こしたことに気づいてはいなかったようね。
ルナリアはまだまだ地球への理解が浅いようで、
「ルナリア! 荷物を浮かしちゃダメ! 手で運んで!」
「それはお金っていって商品との引換券みたいなものだから、勝手に食べようとしちゃだめ!」
「バーコードはレジを通して、目で読んで伝えちゃダメ!」
ルナリア。物覚えはいいし、体力は無尽蔵といっていいほどきびきび動くんだけど、ちょくちょく宇宙人バレしそうなことしてて、気が気じゃなかったわ……。
「こちらの労働もなかなか興味深いものだな」
当のルナリアは笑顔で隣を歩いていた。
人の気も知らないで……。
「ところで瑠奈、これをあげよう」
「これは私が食べたいと思っていたチーズケーキ?」
「ああ、バイト代が入ったのでな。君に感謝のしるしを示そうと思ってたんだ」
「……いないと思ったら買いにいってたのね、ありがとう」
ずしりと疲れはのしかかってくるけれど、チーズケーキの入った箱がうれしくて家に向かう足取りは軽くなっていった。