9話
朝になり、シゲヒラ達と拠点を出る支度をしていく。
「これは……?」
それは巨大な箱だった。
高さは頭よりずっと高く3メートルはある。
下には車輪が6つついている。
荷車のようにも見えるが、人が引くためのハンドルもない。
そもそも人が引ける大きさとも思えない。
「これはトラックっていうんだ。
荷物をここにいれてくれ!運ぶからな」
どうやって運ぶ気なんだ?
俺の疑問を感じたのか、シゲヒラが続ける。
「電気の力で動かすんだ。
ただこれを使うんとモンスターが寄ってくるからな
忙しくなるぞ!」
望むところだ。
俺は荷物を預けた。
「さて、昨日決まったことを今のうちに話しておくか!」
俺、ヨロギ、シゲヒラは3人で前衛となっている。
トラックの中に人が2人入っており、他に4人が中衛にいた。
後衛には12人もの戦士がいる。
トラックのおかげか、小隊としては豊富な戦力を持っていた。
「昨日のうちっていうのは、幹部会の事ですね」
「そうだ!ヨロギには少し話したんだが……」
シゲヒラ曰く、小牧山拠点の2番隊で京都に行くことは問題なく通ったらしい。
しかし会議の結果、小牧山拠点には最低限の戦力を残して、相模湖への救援も同時に行う方針となったとのことだ。
具体的には、1番隊を中心に4~8番隊の合計6部隊で援護を行うとのことだ。
シバが1番隊とともに向かうらしい。
「早く応援を出して貰えたのは、よかった」
「そうだろう、そうだろう!
うちの大将は気が利くからなぁ!」
シゲヒラは上機嫌だ。
しかし表情が曇る。
「さっそく来やがった!
お前らやるぞ!」
シゲヒラは槍を虚空から取り出し、走っていく。
あいつもアストラル・ウェポンが使えるのか!
「俺も行く」
シゲヒラに並走しようとするがどんどん離されてく。
俺もかなり早くなったはずなのに……!
「彼は君より強いみたいだ。
援護に回るのをオススメするよ」
そうだな。
アストラルに返事をし、モンスターの方を見る。
虎が5体いるようだった。
「俺が一番槍じゃ!」
気合いを込めてシゲヒラが槍をつく。
一体の虎が頭を貫通され、絶命した。
「ガルルッ!」
虎が2体飛び交ってくる。
シゲヒラは槍を振り、虎が刺さったままもう一体の虎を吹き飛ばした。
なんて力だ!
負けちゃいられない。
「撃つぞ!」
シゲヒラに合図し、3発の弾丸を飛ばす。
三条の光が、螺旋を描いて伸びていく。
後ろの2体と、飛び交ってきている虎の頭を貫き、絶命させた。
よし!
「坊主!やるじゃねーか!
よく着いてこられた!」
シゲヒラは槍を引き抜き、最後に残った1体に止めをさした。
圧勝だ。
「その威力。坊主も使い手か!」
「そうだ」
シゲヒラは考えると言った。
「噂には聞いたことがある。
高校入る前に使い手になった神童てのはお前か?」
誰のことだ?もしかして、リンのことなのか?
「いや違う。
俺が目覚めたのは、今回の襲撃の後だ」
「そうか……辛い戦いだったろうからな」
シゲヒラは労うと、槍を消した。
「さあ戻ろうか!
あいつらなかなか追いついてきやしない」
中衛の4人が50メートルほどの距離まで来ていたが、まだまだ合流にはかかりそうだった。
俺たちは道を戻り、仲間たちと合流した。
その後も度々モンスターに襲われたものの、
突っ込むシゲヒラを援護するだけで簡単に倒していく。
おそらくクラーラ以上の使い手だ。
ヘイゾウとは互角くらいだろうか?
小牧山を出て4日目の夕方。
俺たちは彦根拠点にたどり着いた。
彦根拠点は首都、京都都市の玄関口だ。
函館、会津、鎌倉、松本の4都市に加え、金沢都市から京都に行く際にも経由する。
そして彦根から京都までは、4日あれば移動できる。
ついに長きにわたる旅が終わろうとしていた。
「小牧山からなんの用かと思えば、鎌倉都市の件ですか」
彦根拠点の隊長はカナミという30歳くらいの女性だった。
「長旅疲れたでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
鎌倉都市が襲われたことについては知っていたようだ。
京都にも、鎌倉都市の一件は伝わっているとみていいだろう。
彦根拠点を出て2日後、俺たちは琵琶湖大橋を前にしていた。
「でっかい橋だなー!」
橋の向こうには日が沈んで、夕焼けが湖を照らしている。
「ここまで大きな橋は、鎌倉にはありませんからね」
ヨロギも橋に見惚れているようだった。
「ここからが京都行きの難所だ!
お前ら!気合い入れろよ!」
「おう!」
小牧山の隊員が声を上げる。
「難所というのは?」
「彦根から京都まで、
めぼしいダンジョンは潰しきってるからそうモンスターは襲ってこねぇ。
だが比叡山ダンジョンは別だ。
あそこから来る天狗共に何回煮え湯を飲まされたことか……!」
天狗がいるのか!
「天狗は強いのか?」
「強い。
それに数も多い。
ここから京都までは休めないからな。
明日の昼まで休んで、向こうに着くのは2日目の夕方だ」
夜通しの移動か。
戦闘しながらだと、かなりハードだな。
翌日。
陽射しを背に橋を渡っていく。
もう5月も下旬となり、かなり暑い。
橋の上は遮るものもないからな。
「隊長!あれ!」
「早速きたか!いくぞ坊主!」
「おう」
シゲヒラとともに前に出る。
鷲の羽を閉じ、目の前に人形のモンスターが着地した。
これが天狗か……!
「くらえっ!」
天狗がシゲヒラの槍を居合切りで受け流す。
「シゲヒラよけろ!」
シゲヒラの背中から弾丸を放つ。
横に避けたシゲヒラを掠めた弾丸が、天狗の体を貫いた。
「これで終わりだ!」
シゲヒラが槍を弾痕に向けて突きいれる。
天狗は刀を手放し倒れた。
やった……!でも
「強すぎやしないか!?」
魔人も1発で倒せたのに!
天狗は弾を食らってもまだ動けていた。
こんなのがうようよいるなら到底勝ち目はない。
「こいつは特別だ。
鷲の羽根を持っているのは大天狗だ。大した武勲だぞ!」
大天狗は魔人相当らしい。
それならばこの強さも納得だ。
「うん、本当においしい!
大天狗は間違いなく魔人相当だね!」
アストラルも喜んでいるようだ。
その後はパタリと敵襲がなかった。
しかし周辺から、こちらを見ている気配がする。カラスの羽が道に落ちている。
狙われているのは間違いない。
天狗達との戦いが迫っていた。