8話
「どこの部隊だ?」
甲府拠点から声がかかる。
「鎌倉都市だ。私はこの部隊の長のヨロギだ」
「鎌倉都市のヨロギさん……って、隊長の同期の!
すぐ呼んできます!どうぞお入りください!」
応接室で待つと、直ぐに隊長が現れた。
「おおヨロギ!久しいな」
「シンスケも相変わらずですね」
シンスケとよばれた隊長は、ヨロギとどことなく似ている、細身の男だった。
「それでどうなった?鎌倉都市の生き残りは」
「それが上野原で……」
状況を説明し終えると、沈痛な面持ちでシンスケが口を開いた。
「大変だったな……ほんとに。
今日は是非ゆっくりしていってくれ
見張りは任せてくれていい」
甲府拠点は水が豊富だった。
相模湖拠点でも豊富ではあったが、その分人数も多かった。
そのため俺たちは、久々に湯船に浸かることができた。
「おや?シュウ君は今回の戦いで、傷一つおっていないのかい?」
ヨロギが声をかける。
湯船は広いため、ヨロギ、シンスケ、俺の3人で入っている。
かなり気まずい。
「おそらくアストラル・ウェポンの影響だと思います」
骨折が3日で治るんだ。
ちょっとした擦り傷くらいなら数時間で治るだろう。
「ほんとに若いのに大したもんだな!シュウ君は!
俺はここを任されちゃいるが、使えないってのに」
シンスケがぼやいている。
「私もですよ。彼は鎌倉都市の希望ですね」
「だな」
話の内容も気まずい。
そろそろ上がるか。
先に風呂を切り上げ、自室にて休む。
こうして部屋で休むのも、随分久しぶりだ。
ずっとテント生活だったからな。
安心感からか。
俺はすぐに意識を手放すと、泥のように眠った。
翌朝、俺たちは諏訪湖拠点に向けて進発した。
諏訪湖までの旅程も3日ほどだ。
諏訪湖から北上すれば松本都市。
西南へと進めば京都都市へと向かう、要衝である。
真っ直ぐ西へ進めばすぐだが、その進路は南アルプスによって阻まれている。
急がば回れ。
北回りのこのルートの方が、安全でかつ早く着くことが出来るのだ。
小隊による行軍は順調を極めた。
諏訪湖、木曽福島、中津川といった拠点を次々と通過し、一路京都へと進んだ。
合計10日の旅程を終え、俺たちは小牧山拠点へと辿り着いた。
小牧山拠点は特殊な拠点である。
かつて大都市名古屋があった小牧山は、当初は小牧山都市として計画された。
しかし名古屋周辺はモンスターの数が多く、都市として機能するだけの人口を確保することが出来なかった。
一方で多数のダンジョンが周辺にあることから、戦士たちの需要は凄まじく大きい。
その事から小牧山拠点は、戦士たちによる都市の様相を呈している。
他の拠点とは一線を画した、大拠点となっていた。
遠方に巨大な城が見える。水堀に囲まれた山城だ。
「あれは……?」
「あれが小牧山拠点だよ。といっても私も見るのは初めてだがね」
ヨロギも見るのは初めてか。
そうおもっていると、水堀の向こうに人影が見えた。
「おいお前ら、どこの部隊だ?この辺じゃあみない顔だが」
拠点から声が聞こえる。
人影はかろうじて見えるが、こちらからは全く顔が見えない。
どうやって判断してるんだ?
見えてるっていうのか……!
「鎌倉都市の部隊です!」
ヨロギが返答する。
そもそも声が届くのもおかしい。
こちらの声も聞こえるわけもないか。
「鎌倉都市!?どうしてこんなところに?
まあいい、とりあえず中に入れ!」
どうやら聞こえるらしい。
水堀に吊り橋が架けられ、中に入れるようになった。
俺たちは小牧山拠点へと入った。
「俺は小牧山拠点、2番隊隊長のシゲヒラだ」
小牧山拠点に入ると、会議室へと案内された。
「私は鎌倉都市の小隊の指揮を預かっている、ヨロギです」
「そうか。なんで鎌倉都市からこんなところまで来てるんだ?
予定にはなかったよな?」
ヨロギが事情を説明していく。
どうやら早馬はここまでは届いていないらしい。
松本都市までだったんだろうか?
「事情はわかった。
京都が動く時は協力してなる。
もっともそういう命令が出るだろうからな」
シゲヒラはそういうと腕を組んだ。
「もしよければ、京都までは俺らが代わりに行ってもいい。
ここまで疲れただろう。
お前たちは京都が動いたら、ここで合流すればいい」
それは魅力的な提案だ。
戦闘が無かったとはいえ、疲労はかなり溜まっている。
特に荷台持ちもやる隊員達は明らかな疲れがみえる。
シゲヒラの申し出を受ければ、ここで3週間は休むことができるだろう。
「わかりました。ただし増員が可能であれば、私だけは連れて行ってもらいたい」
ヨロギはそう言った。
「なぜ?」
「私は隊長から直接任務を預かりました。
道半ばでそれを放り投げるのは気が引けます。
とはいえ部隊に疲労の色が濃いのも事実。
私だけを連れて行って頂きたいのです」
シゲヒラは満足気に笑い出した。
「気に入った!どうだ?もう1人2人なら連れて行けるが……
来たいやつはいないか?」
京都まで1週間か。
そういえば首都にはもっと強いやつがいるって、アストラルが言ってたな?
「そうだよ。アストラル・ウェポンの先に至るものも、京都にはいる」
なら強くなるためには行くしかない。
「俺も行く!行かせてくれ」
「お前は?」
「シュウだ。仲間の仇を討ちたい。
そのために早く強くなりたいんだ!」
「鎌倉都市は活きがいいのが揃ってるな!
わかった!今夜幹部会議で話は通しておく。
明日からお前らと戦うのがたのしみだ!」
シゲヒラはそう言って会議室を去っていった。