7話
戦場は地獄絵図だった。
民間人を殺すモンスターと、そのモンスターを狩る戦士とが河原で入り乱れている。
左手を流れる川は血で赤く染まっている。
まだ100メートルはあるが、剣や銃の音だけでなく、血の匂いまで漂っていた。
「くそっ……!モンスターめ……!」
リボルバーを抜き、照準を合わせる。
そこでぼんやりと見えていたモンスターが、猿型であることがわかる。
その脳天を狙う……!
放たれた6発の弾丸が、狂いなく猿の脳天へと吸い込まれていく。
それぞれの弾丸が、それぞれの役割を果たし、
弾丸の数と同じだけのモンスターを狩り取った。
「これじゃあきりがない」
見えている範囲だけでも1000体以上はモンスターがいる。
闇雲に打っても焼け石に水だろう。
リロードし、再び射撃する。
そこで何体かのモンスターがこちらに気付き、遅いかかってきた。
「こい……!やってやる!」
気合いを入れて迎え撃つ。
5回ほどリロードしたところで、モンスター達の動きが変わった。
……大勢でこっちに向かってくる!
「この数はキツい!」
俺は下がりながら射撃を続けた。
しかし敵の数が多すぎる。一向に減らない……!
「下がって!」
駆け寄ってきたシバが叫んでいる。
迎撃はシバに任せ、真っ直ぐシバの方へと走る。
シバはアサルトライフルを撃っている。
背後の状況はわからないが、どうやら効果はありそうだ。
シバがいる所まで下がると、頭上を何かが飛び越えていく。
着地音に猿の方を向くと、騎士が猿へと向かっていった。
タリハだ!
「タリハ!援護する!」
「頼りにしてるぜ!」
シバと共に射撃を続ける。
すると背後にはヨロギが来ていた。
「よくやってくれた……!全員展開!前進!」
その指示でヨロギを中心とした扇形に小隊が陣形をとる。
火力を集中され、猿達は右手の森の方へと逃げていった。
「このまま救援に向かうぞ!全速前進!」
「おおぉー!」
ヨロギの指示で駆けていく。
本隊に群がる猿たちも次々と森の中へ姿を消していく。
とんでもない量のモンスターだ。
そこに目にも止まらぬ速さで近づき、刀を振った人影があった。
「隊長!」
ヘイゾウの攻撃で猿たちが放射状に吹き飛ぶ。
致命傷だな。
「狡猾な奴らだ。どこで俺たちに気付いたんだ?
昨日のうちにダンジョンから出張っていたとはな」
ヘイゾウがぼやきつつ近づいてくる。
思い当たる節がひとつあった。
「そういえば猿型とは、昨日も戦ってる。なあタリハ?」
「たしかに。昨日姉ぇさんたちと倒したのは、斥候だったのかもしれないな」
また多くの人命を奪われた。
モンスター達は本当に強い。
「一旦下がる必要がある。怪我人も大勢出た。
シュウ。またひとっ走り頼めるか?」
「もちろんです」
状況を説明し応援を得るため。
俺は再び相模湖拠点を目指した。
「シュウどうしたんだ?他の仲間は!?」
相模湖拠点に着くと、クラーラが出迎えてくれた。
「仲間が大勢やられた。力を貸してくれ!」
事情を説明し、クラーラ達と共に上野原に戻る。
ヘイゾウらは医師と協力し、応急処置に当たっていた。
だがそれでも、山のような死体が積み上がっていた。
「燃やすしかない……」
クラーラは言った。
モンスターのせいで。
この人たちには墓も作れないのか……!
俺たちは死者を焼いた。
怪我人は民間人に介助を任せた。
民間人の助けもあり、全員が相模湖拠点へと戻ったのは2日後の事だった。
俺はいま会議室にいる。
ヘイゾウ、クラーラ、小隊長達にくわえ、俺も招集されたのだ。
場違いなこと甚だしいな。
「作戦を考え直す必要があるな」
ヘイゾウがそう言った。
怪我人が多く出たこと、無事な人も不安になったことから、
従来の作戦は難しいという判断らしい。
「幸い、食料は足りそうですからね。皮肉にも」
ヨロギの言う通り、物資に不足はなくなった。
もっともこれは物資が補充されたからでは無い。
生き残りが2000人になってしまったことによる、消費の減少からだった。
「民間人の保護は任せておくれ。
この人数なら十分、この拠点に収容できる」
クラーラはこの案に賛成のようだ。
「結論は出たな」
ヘイゾウはそう言い、会議室を後にした。
翌日、ヘイゾウから作戦を伝えられた。
ヘイゾウ達は相模湖拠点の防備に残ることとなった。
またも使いっ走りの任務は俺に与えられた。
「毎度すまないが、シュウを置いて頼めはしない。
先程組んだヨロギの小隊とともに、首都、京都へ向かってほしい」
ここから京都まではおよそ400km。
鎌倉から松本までの距離の倍にあたる距離だ。
少数精鋭とはいえ、3週間はかかるだろう。
「わかりました」
しかし否とはいえない。
二千人の人命がかかっているのだ。
応援を要請するため。
ヨロギ小隊の一員としての旅が始まった。
小隊は前列に俺、ヨロギ
中列に荷車2名と護衛2名
後列にシバ率いる5名という配置だ。
荷車は二人がかりで運ぶ必要があり、ヨロギ、俺、シバを除く8名で交代で運んでいる。
逆に戦闘時はこの3名が戦えるよう、完全武装で進んでいた。
少人数だからか。
先程の戦いでの損害が大きかったのか。
無傷のままに、因縁の地、上野原へと俺たちは辿り着いた。
「やはりあのモンスターたちはここのダンジョンから出ていたんだろうね」
ヨロギの声にダンジョンを見ると、多数の血痕と、破壊された柵が目に入った。
「そのようですね」
まんまと敵に翻弄されたというわけだ。
悔しくて仕方がない。
いっそ、このダンジョンを攻略してしまいたいほどに。
「シュウ君。そんなに悔しそうな顔をしないでくれ。
作戦を立てたのは私とヘイゾウ隊長だ。
君は何も気に病むことはないよ」
バレていたか。
「ありがとうございます。でもいつかは……!」
このダンジョンのモンスターを皆殺しにして、
復讐してやる……!
さらにそこから川沿いを進む。
3日目の夕方。ついに俺たちは甲府拠点へと辿り着いた。