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6話

しばらくして応接室にタリハと背の高い女性が現れた。

おそらくこの人が隊長だろう。


「相模湖拠点隊長のクラーラだ。よろしくな、少年」

「シュウです。お願いします。」

自己紹介をし握手を交わす。


「その若さでアストラル・ウェポン使いか。大したものだ。

積もる話もあるが、いまは鎌倉都市の住人の避難が先だ。

移動しながら聞かせてもらう。

それでいいかい?」

「はい、もちろんです」

クラーラは自信に溢れており、カリスマを感じる。

ただ強いだけじゃない。


都市から離れた拠点を任されるには、こういう能力も必要なのだろう。


10人ほどの部隊で来た道を折り返し、民間人の避難を助けに向かう。


今までの事をタリハとクラーラに話しながらだ。

2人共鎌倉都市に同情をしてくれたが、特に反応したのは海から魔人がモンスターを引き連れてきたことだった。


「いままできいたことがない。タリハはあるかい?」

「俺もないですよ!ねぇさん。

もしかしたら、相模湖拠点も危ういかもしれないな」


相模湖拠点もまた湖畔の洞窟という守りやすさに寄っていた。


しばらく行くと今度は猿型モンスターの群れが現れる。

数は30くらいだろうか?

戦おうとリボルバーに手をかけるが、クラーラから静止が入る。


「シュウ君は見ていてくれ。お前らいくぞ!」

「おう!」


タリハ達が先行していく。

タリハは全身を西洋鎧に身を包み、騎乗している。

さながら西洋の騎士だ。

左手に盾を、右手に槍を構えている。

とても頼もしい。


タリハが猿の群れと接敵するまであと5秒という頃、クラーラが弓を構え、引き絞る。

矢がないのにどうして。

そう思っていると光が矢の形をとっていく……これがクラーラのアストラル・ウェポンか!


タリハに向かって飛びかかる猿が、次々と矢によって仕留められていく。

さらに味方の銃撃もあり、一気に半数以上を失った猿たちは一目散に逃げ去っていった。


圧勝だった。


「どうだい?私のアストラル・ウェポンもなかなかだろ?」

弓をしまいつつクラーラが言った。


「すごかった」

弓もそうだが、連携がすさまじい。

敵の攻勢を許さず、クラーラの遠距離火力を押し付けて勝っていた。

俺にもあんな連携ができるだろうか……?


「ありがとう。では進もうか」


相模湖から出て1時間程たった頃。

鎌倉都市の部隊が見えた。


「シュウか!よくやった!」

ヘイゾウが手を振っている。


任務完了だ。


鎌倉都市の人々と合流し、道をもどること2時間。

俺たちは再び相模湖拠点に戻っていた。


あたりはもう真っ暗だ。

ここで一夜を過ごした後、相模川に沿って西へと進む事になる。


周辺の警戒は拠点の戦士がやってくれることになった。

久々の休息だ。

あえてテントをはらずに仰向けに寝転ぶと、夜空には星が瞬いていた。


あまりにも綺麗な星の輝きは、切通しでマイやケンと見上げた星を思い出させた。


たった4日前、一緒に空を見た戦友たちは、もういない。

その事実に胸が押しつぶされそうになる。

もっと早く力に目覚めていれば……!


「自分を責めることは無いよ。君のおかげで救われた人もいる」

アストラルが話しかけてくる。

「僕含めてね」


その言葉がすっと胸に入ってくる。

もし最後まで力に目覚めなければ、もっと多くの人が犠牲になっていた。

そう思うと、少しだけ心が落ち着いた。



滲む夜空を見上げながら、俺は眠りに身を任せた。



翌朝、相模湖拠点を出発した。

松本までの旅程に耐えられない人を置いた関係で、人数は8000人弱にまで減っていた。

それでも河川敷を出た一団は、川沿いを覆い尽くすような数だった。



次の目的地は甲府拠点らしい。

甲府までは山道が続き、おおよそ一週間ほどで着く予定だ。


道のりの長さも困難ではある。

だがそれ以上の困難は、上野原ダンジョンを抜けることだ。


迂回はほぼ不可能であり、これだけの人数で素通りするのは困難だ。

つまり戦闘必至である。

松本までの最大の難所と言えた。



「今回は相模湖拠点からタリハに来てもらった。

加えて、新たなアストラル・ウェポンの使い手、シュウ君を小隊に加える。

この精鋭12名で、上野原ダンジョンを抑えてもらう」


ヘイゾウの説明によれば、ダンジョンの出口を少数精鋭で囲み、出てくるモンスターを片っ端からやっつけるとのことだった。


「てことはシュウ君が姉ぇさんの代わりってこか。頼りにしてるぜ!」


小隊には他にも小銃や弓、刀の使い手がいるが、最大戦力は俺らしい。


心配だ。


「小隊長はヨロギ。やれるな?」

「お任せを。命に替えても、ダンジョンからはモンスターを出させません!」


30代前半だろうか?

ヨロギと言われた細身の男はそう言って敬礼した。


上野原を通過するのは2日目になる。

陣地を作るため、12人の戦士たちが先行した。



1日目の夕方、上野原ダンジョンに辿り着いた。


ダンジョンの入口は底なし沼のようになっていて、底が見通せない。

巨大な蟻の巣のような形だ。


柵を回りに作ったところで、ヨロギが声をかける。


「ではこれから野営とする。

2人1組で不寝番をしていく。タリハはシュウと組んでくれ。お前たちは1番最初だ」


余所者だからか?

そう考えるとタリハが口を開く。


「俺たちは明日の要だからな!たっぷり休みをくれるって言うなら、甘えさせてもらうぜ」


「ああ、2人は頼りにしてるからな!」

ヨロギは笑顔で返す。


なるほど。たしかに最初であれば体を1番休められるか

……期待が少し重い。


「さあ、支度を始めるぞ!」




夕食を終え、タリハと見張りをする。

受け持ちは2時間だ。

篝火を眺めながら、モンスターに警戒する。



「不安か。シュウ」

珍しく真剣な面持ちで、タリハが話しかけてくる。


「不安だよ」

それもとんでもなくな。


「ハハハ!まあそうだろうな!

まああんまり気負うな。

今回のメンツは俺含めベテラン揃いだし、そう遅れをとることは無いよ」


「そうなのか」

小隊長も含め、かなり若手が多い印象だが……


「ああ。みんな、卒業と同時に最前線で戦ってきた戦士たちだ。

顔馴染みも多い。

優秀な奴らばかりだよ」


卒業してすぐ戦士になるものが多いが、その多くは前線には行かない。


都市外の哨戒や、最前線拠点の防衛を任される者はごく一部だ。


優秀で経験豊富な、都市の精鋭だ。


「タリハ、シュウ!交代だ」


「おっともう時間か。

じゃあシュウ、明日はよろしくな」

ハハハ、と豪華に笑ってタリハは去っていった。




柵を囲み、それぞれの得物を握りしめる。


予定ではあと一時間ほどでここを通過するはずだ。


しかしダンジョン内は静かなもの。

斥候一人出ては来なかった。


ダンジョンの近くに来たの初めてだが、こんなにも静かなものなのか?

もっとこう、頻繁にモンスターの出入りがあるもんだと思っていたが……。


そして妙なのは、鎌倉都市の部隊もまた、現れないことだ。


一時間前であれば音くらいは聞こえてきそうなものだが……。


「シバ。いまから味方の様子を見てきてください。

戦闘状態でも加勢せず、報告を最優先して」

「はい!」

ヨロギの指示で、シバが走ってゆく。

人並外れた瞬足だ。


「君もその気になればあれくらいはできるよ?」

アストラルから声がかかる。

「そうなのか?」

「君はもう人間とは隔絶した存在だからね。

もっと早く走ることも、鍛錬次第ではできる」


たしかに相模湖拠点に向かう時、全く疲労がなかった。

疲労を考えなければ、もっと早く走ることも可能ということか。


そしてその20分後、シバが帰ってきた。


「ヨロギまずい!本隊が囲まれてる!」

「全員救援に向かいます!先行できるものは先に!」


「おう!」

俺は声を上げて走り出す。

以前のトップスピードから、さらに足を早く動かす。

早く。もっと早く。

ここが限界。

トップスピードに達した俺は、一瞬で仲間たちを置き去りにした。




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