5話
戦闘から3日が経った。
松本までの道のりはやっと1/4ほどであり、今日中に相模湖畔に着こうというところだった。
復帰までは散発的なモンスターの襲撃こそあったものの、犠牲は出ていない。
まずまず順調な旅と言えた。
また夜毎夢に現れるアストラルから話を聞くことで、おおよその状況も知ることが出来た。
まずアストラルとは、自分の分身のようなものらしい。
分身であると同時に世界の叡智に接続することが出来ると言っていたが、肝心の世界の叡智というのはピンと来なかった。
次にアストラル・ウェポンについてだが、これは俺がもっとも好きな武器の形をとるらしい。
俺はずっとハンドガンを使ってきたからアストラル・ウェポンがハンドガンだったが、ヘイゾウなどは刀が好きなために刀だった。
しかしアサルトライフルのような複雑な機構の武器はアストラル・ウェポンには存在しないとのことだ。
アストラル・ウェポンを得た際には他の武器になるということだろうか?
アストラル・ウェポンを強化するにはモンスターや魔人を倒したり、強い感情を持つことが必要だ。
つまり戦闘によってこそ強化がなされていく。
当面はモンスターを狩ることでアストラル・ウェポンを強化することになるだろう。
そしていつかは、魔人を全滅させる……!
そう決意を新たにし、俺は司令部へと向かった。
「シュウ!3日ぶりか。体の調子はどうだ?」
部屋に入るなりヘイゾウが聞いてくる。
「問題ないです!」
「そうか!ならば早速任務をやろう。
相模湖畔には戦士の拠点がある。先行して事情を説明してきてくれ!」
ダンジョンが出来て以降、都市は八箇所しかなかったが、戦士達は各所に拠点を築いている。
情報収集、伝達が主な目的だが、近くのダンジョンの制圧を行う事もある。
俺は了承を伝え、司令部を後にした。
隊長から受け取った地図を頼りに駆けていく。
もっとも一本道だ。
迷うような道ではない。
と、そこへクマ型のモンスターが襲ってくる。
体長3メートルはあろうかという巨体で威圧してくる。
「ちっ……モンスターめ」
俺はアストラル・ウェポンを構え、弾丸を放つ。
軽い反動で弾が飛んでいき、あっさりと額を貫く。
モンスターが倒れ、後頭部から血が吹き出す。
「なあ、アストラル。こいつだったらデザートイーグルで十分か?」
アストラルからの声が脳裏に響く。
「いや、こいつはサメ型のよりずっと強いよ。
アストラル・ウェポンを使う方がいい。
それに君のアストラル・ウェポンは極めて燃費がいいんだ。
そこまで気にする事はないよ」
そうなのか。
あまりにあっさりと貫通するから、弱いモンスターなのかと思った。
「必要最低限威力を僕が弾に込めてるからね。余分なエネルギーがほぼないんだ。
それに小さな弾丸を飛ばして貫通させるっていうのは、すごくエネルギー効率がいいんだ」
なるほど。それならヘイゾウのように武器をふたつ持つ必要はないか。
「ほら次が来た。ここはいい狩場だね」
見るとクマ型が三体現れている。
「全くだ」
こんなのは餌でしかない。
多くの餌を食らって、また魔人を倒す……!
走り続けること1時間。
早くも諏訪湖畔へと到達した。
かなりのスピードで走ったにも関わらず、全く疲労がない。
これもアストラルによる恩恵らしい。
「おおーい!鎌倉の生き残りかー!?」
遠くから声が聞こえる。
「そうだ!これから民間人も含めてやってくるんだ!
俺は隊長の命令で先行してきた!」
「わかった!門をあける!そこで待ってろー!」
近くの岩が開き、洞窟へと続いている。
山肌だと思っていたが、どうやらここが拠点のようだ。
洞窟の中に入ると、すぐに戦士が応対してくれた。
かなり大柄な男だ。
縦にも横にも大きい。
「1人で先行してきたのか!?見たところ見習いのようだが……」
「ああ。だが俺もアストラル・ウェポンは使えるんだ」
「まじか!?その若さで大したもんだ。
うちのとこは隊長しか使い手がいないんだ。
やっぱり都市にはすごいのがいるなー!」
ガシガシと背中を叩いてくる。
「申し遅れたな。俺は相模湖拠点のタリハ。生まれは鎌倉都市だ。
つい3日前に緊急の早馬がきてな。お前らの窮状はわかってるよ。
ここには少しは補給物資もあるから、是非持っていってくれ」
「ありがとう。俺はシュウだ」
「シュウって言うと、神童の幼なじみか!?
神童が前に来ててな。
いろいろ聞いてるぞ。隊長も呼んでくる!」
タリハはやかましいが良い奴だ。
俺は案内された応接室で、しばらくぶりの安息を味わっていた。