4話
また白い霧の中に立っている。
再び人影が現れた。
「やあ、さっきは大活躍だったね」
「お前か……お前は一体何者なんだ?ハンドガンが現れたのも、お前のおかげなのか?」
戦闘の最中、言われるがままに銃を使った。
こいつの正体も分からぬままに。
「そうだよ。君が魂なら僕は霊。アストラルと言われる存在さ」
そういって赤髪の少女はにこりと微笑む。
アストラル……?聞いたことがない。
「ダンジョンが生まれてから、モンスターにだけ変化が起こったわけじゃない。
僕たち人も同じように変化を受けている。
そのひとつが霊体の存在。
魂の力が上がれば、霊の力を感じたり、アストラル・ウェポンを使えるようになるんだ」
魂の力……?
それが上がったから、ハンドガンが使えるようになったってことか?
「魂の力は、どうやったら上がるんだ?」
「訓練、戦闘。
それから強い感情を持ったときに上がるよ。
生まれつき、力の強い弱いはあるけどね」
それが上がったから、あのハンドガンが生まれたってことか。
「俺以外にも、使えるやつはいるのか?」
「大勢いるよ!特に首都のやつらはその先に至る者もいる」
「その先……?」
「詳しくは教えられないよ。それは星の盟約に背くことだからね。でも君ならいずれ辿り着けるはずさ」
赤髪の少女はそういって俺の背中を叩く。
「俺は死んでいないのか?」
さっきの戦闘は確実に致命傷だったはずだ。
でもこいつの言いぶりでは、まだ先があるらしい。
「うん。君は霊力に目覚めた。今までの常識は通用しない。
あの程度の傷なら、3日もあれば治るだろうね」
「たった3日で……!」
全身の骨折に大量出血。
それが3日で治るなんて……!
「とはいえ過信しないことだよ。
即死レベルの怪我だったり、長い期間負傷が続けばとりかえしがつかない。
無茶はしないでおくれ。
僕のためにもね」
とりかえしがつかない。か。
「あいつはどうなった!マイとケン!
それに親は……」
「彼らは死んだよ。見ての通りだ。
僕が力を与えられるのは僕自身。つまり君だけさ」
「そんな……!」
憎い……モンスター達が……!
突然故郷を襲い、あまつさえ大切な人々を奪い去った。
「いいね!すごい憎しみ。
僕はそういう、強い感情が大好物なんだ!」
少女は恍惚とした表情を浮かべている。
「それに魔人を倒すのもいい!たった一人倒しただけで、いままでの全部合わせたより美味しかった……!」
こいつも、魔人を倒したいのか。
「ねぇ。一緒に復讐をしよう」
「復讐……?」
「大切な君の……僕たちの家族や友人を奪ったモンスター達にさ!
感情も戦闘も、僕の大好物だし、君もさらに強くなれる」
復讐か。悪くない。
守りたかった街も、人も。
失ってもう戻っては来ないのだから。
「もっとも、すぐにとはいわない。
今は体を休めることと、拠点を作ることが大切だからね。
さあ、目を開けて!世界が君を待っているよ!」
目を覚ますと、テントの中だった。
意識を失っている間に運んでもらったらしい。
服は血だらけで、あちこちの皮膚にもこびりついてはいるが、骨は早くも治っているようだ。
「気がついたか。
さっきはよくやってくれた」
テントの端に1人の男が立っていた。
白い軍帽を目深に被っており目元は見えない。
背の高さは180cmに届こうかという高さだ。
腰には刀を二振り差している。
白の軍服は完璧に着こなされており、いままでの経験を伺わせる。
「俺はヘイゾウという。この鎌倉都市軍の隊長だ」
ヘイゾウという名前には聞き覚えがある。
たしか鎌倉都市の戦士長だ。
「俺はあの時、殿軍にいてな。
同時に襲撃を受けていて救援に向かえなかった。すまない」
ヘイゾウはそういって頭を下げる。
「とんでもないです。仕方がないことだったと思います」
隊長に頭を下げられるのは恐縮だ。
この人はこの人でもっとも危険な場所にいたしな。
なにも謝られる筋合いは無い。
「そう言って貰えると助かる。それで君は目覚めたんだろう?」
目覚めた。
つまりはアストラル・ウェポンを使えるようになったということか。
「はい」
「その銃が……」
「アストラル・ウェポンです」
「なるほどな……
そうだ。俺のアストラル・ウェポンも見せてやる」
ヘイゾウはそう言うと刀を抜いた。
刀身は漆黒で刃の付け根には赤い溝が着いている。
とてつもない力を感じる。
首筋がチリチリと疼く。
「こいつとは数多の死線をくぐってきた。
アストラル・ウェポンは戦闘を積むことでさらに強くなれる。
……励むことだ」
ヘイゾウは刀をしまった。
そこで一つ疑問が湧く。
「もう一本はなんであるんだ?」
「ああ。これは省エネ用だ。
大物以外はこれでやってるんだ」
ヘイゾウがもう一本の刀を抜く。
銀色の刀身の、なんの変哲もない日本刀だ。
「お前ももとの武器も使った方がいい。
転がってたハンドガンはそこに置いてある」
ヘイゾウが目線をやった先にはS&W M29が置いてあった。
「目を覚ましていなかった怪我人はお前で最後だ。
しばらくは民間人とともにいけ。
怪我が治って、戦う意思があれば司令部に来てくれ。
仕事をやる」
「はい!」
「もっともお前さんはもう十二分にその責務を果たした。
このまま松本までゆっくり休んでても、誰も文句言わないだろうよ」
それは事実だろう。
だが俺には決めたことがある。
「この傷は3日で治る。そしたらすぐに仕事を貰う!
俺は大切な仲間を、家族を、街を奪ったモンスター達を許さない……!」
ヘイゾウは感嘆の表情を浮かべる。
「実は市長も今回の戦いで死んだ。
俺は全体の指揮もしなくちゃならない。
力を貸してくれ」
俺たちは握手を交した。
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