1話
新連載です!よろしくお願いします!
「それじゃあいってくるね」
二振りの日本刀を腰に佩き、セーラー服に身を包んだ少女は、小さく笑ってそう言った。
少女の名前はリン。
俺の幼なじみだ。
肩まで伸びる黒髪は朝日を浴びて輝いてる。
髪と同じ黒い瞳は、少し心配そうに揺れていた。
「おう!気をつけてな」
段々日差しが強くなってきた5月の頭、
リンには遠征任務が課せられた。
俺たちが住む鎌倉都市は、残された日本の都市の中でも最多の人口を誇る都市だ。
俺たちはその鎌倉第一高校の生徒として、日々学業と、任務に打ち込んでいる。
「次に会うのは、夏になるかな?」
リンに与えられた任務は会津都市への連絡だ。
連絡任務は鎌倉都市の中でもエリートに任せられる任務だ。
その分難度が高く、期間も長い。
「夏になったら、また浜で遊ぼうな」
「そうだね!それを楽しみに頑張ってくるよっ」
リンは力こぶをつくり、輝くような笑顔を浮かべた。
「シュウも任務頑張ってねっ!私が居なくても、ちゃんとやるんだよ」
「当たり前だ」
リンとは幼稚園から続く腐れ縁だ。
高校に入るまではトップを取り合っており、お互いに高め合う存在だった。
しかし鎌倉第一高校の中では俺は10位くらいだ。
リンは変わらず学年一の成績で、若干の距離ができていた。
今回、遠征任務を経てリンはさらに経験を積むだろう。
肩を並べて任務をする機会は今後減っていくかもしれない。
「それじゃあほんとにいってくるっ!」
リンはそう言うと、俺に手を振り歩き出した。
会津高校まで、50年前にダンジョンができる前ならば一日で移動できる距離だったらしい。
それが世界中のあちこちにダンジョンが生まれ、
モンスターが徘徊するようになった事で、
移動はおろか通信すらも困難になってしまった。
移動は音を必要以上に立てないよう徒歩で、しかもモンスターと戦いながらになる。
あらゆる通信機器はモンスターを呼び寄せるため不可能だ。
リンを含めた5人の精鋭は、そうした厳しい条件の中会津へと向かい、都市にとって重要な連絡を届けるらしい。
リン以外は全員が高校を卒業した戦士である。
その事実が都市のリンにかける期待を示していた。
リンはこちらを振り返ることはなく歩みを進めた。俺はそれを見えなくなるまで眺め、踵を返した。
「シュウおはよ!
リンちゃんもう行っちゃったんだって?」
「うるさいぞ」
教室に入った途端これだ。
奴の名前はケン。
こいつも小学校からの長い付き合いになる。
「いやーシュウの天下も今日までかー」
茶色の短髪頭を機嫌良さそうに揺らし笑っている。
たかだかリンが遠征に行ったくらいで大袈裟な奴だ。
「おまえな、なんであいつがいなくなると俺の天下が終わるんだ?」
「いやーだってあんな美少女と四六時中一緒にいたのに、それがいなくなるってなるとなー?」
「え!リンちゃんもういっちゃったのー?」
そういってピンクの長髪の女子が寄ってくる。
「そうなんだよー!それでシュウが寂しがっちゃっててさ。
マイ慰めてやってよ!」
「勝手なことを」
マイとは高校に入ってからの付き合いで、もう一年になる。
「そ、そうなんだ……!
よかったら今日うち、くる?」
マイは白い頬を赤く染めている。
そして後ろではケンが必死に声を抑えて笑っている。
こいつめ。
「あんまりマイをからかうなよ」
「え、からかわれてた……?」
マイが少し落ち着きを取り戻したところでチャイムが鳴る。
今日も学校が始まった。
放課後、マイとケンと連れ立ってファミレスへと向かった。
「なんだかんだいってやっぱ寂しかったんじゃんね?」
「そうじゃない」
ただマイに悪いからだ。ケンを誘ったのもついでだ。
決して寂しいからではない。
「そんなこといってー!」
ケンはそう言ったあと、少し顔を曇らせた。
「どうした?」
「いや、関係ない話なんだけどさ。朝のあれ、どう思う?」
「ああ、あれな」
「え!あれって?」
「モンスターが街に出たーってやつだろ」
「そうそう!」
「あーそういえば言ってたねー」
朝礼のあと、担任から教室への話に奇妙なものがあった。
曰く、魚に4本足が生えたようなモンスターが街で見つかったとの事だ。
いままでは山あいの防衛ラインを超えてモンスターが見つかったことは無い。
どこから侵入したかも不明なため、
しばらくは警戒しなくてはならないとのことだった。
「小型のモンスターだしな。
そんな警戒することか?」
「でも侵入経路がわからないってのがなー」
「もっと大きなモンスターが来たらって思うと、こわいよー!」
マイは少し震えている。
「危険はある。
でも先輩の戦士達も警戒してくれてるし、俺らは勉強に集中すればいい」
「それもそっかー!」
「まあ、そうだよね」
ファミレスで学校の宿題を済ませ、帰路に着く。
先月までなら暗くなっていた時間だが、まだ夕日が差している。
遠く東の空は僅かにその濃さをまして、夜の訪れを告げていた。
「なあ、俺達もいつかばらばらになるのかな? 」
ケンが珍しく真面目なトーンで話す。
こいつもリンの不在に思うところがあるんだろう。
「そうかもしれないけど、ずっと先のことだろ」
鎌倉第一高校を出た者の多くは戦士として都市を守る仕事に就く。
その場合は高校と同じように一緒にいることも叶うだろう。
他の都市に移住したり、ダンジョンを攻略する任務を得れば離れ離れになる事もあるが、
卒業してすぐにそうした進路をとることは稀だ。
「でも、リンちゃんはもう私たちと離れちゃった」
「すぐに帰るさ」
リンはその稀な側だ。
非凡な才能の戦士として、卒業後すぐにでもダンジョンの攻略や、大規模な都市間連合部隊でのモンスター討伐を行う可能性がある。
もっといえば、首都である京都都市に招集される可能性もある。
今回の任務が終わったとしても、一緒に居られる時間は短いのだろう。
「みんな一緒にいられたらいいのにね」
マイのつぶやきに心の中で同意する。
一緒なら、どんな任務だってこなせる。
そう思う。
と、そこにけたたましいサイレンが鳴り響いた。
何事だ!?
「な!なんだ!?」
「これはモンスターの襲来!?どこからだ!」
「警告!海岸から大量のモンスターが現れました。戦士と見習いの諸君は急ぎ海岸線の防備へ当たれ!繰り返す!戦士と見習い諸君は急ぎ海岸線の防備へ当たれ!」
日常が壊れる音がした。
海岸線には惨状が広がっていた。
既に多くの戦士達がその役目を終え、倒れていた。
話にあった4足の魚に埋め尽くされてる上、象の足がついた大型のサメがそこかしこで暴れている。
まだ生きている戦士たちが一人、また一人と死者の列に加わっていった。
「シュウ、これ」
「ああ。これは戦うだけ無駄かもしれん」
自然とリボルバーを握る手に力が入る。
先輩達を殺された事への復讐心を、勝算を計算する理性でおしとどめる。
指揮がない以上、撤退すべきか。
「シュウ!あぶない!」
街の方から回り込んだサメ型のモンスターが突進をかけてくる。
発砲の指示を待たずしてケンのアサルトライフルが火を噴いた。
しかしサメの装甲は硬いらしく、わずかに弾丸がくい込みはしても効果は薄い。
そしてもうひとつの望まない効果だけは、強く発揮していた。
「ケン!周りのモンスターが……!」
「くそっ!」
こちらに注意を向けていなかった魚型のモンスターの群れがこちらへと向かってくる。
命がけの戦いをする覚悟をする間もなく、俺たちは泥沼の戦いを始めてしまった。
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