オトナ的アクション(5)
部屋の中は清潔だった。
初めて入った。
これがオトナの世界なんだ。
おれは少し震えてた。
「寒い?」
確かに、部屋の中は寒かった。
けど、震えの原因はそれだけじゃない。
ソファーに腰を下ろしたユウさんはタバコを取り出した。
「タバコ、吸ってもいいかな?」
どこまでも紳士的な人だ。
「どうぞ。おれも吸いますから」
おれはユウさんとはテーブルをはさんで向かい合わせのソファーに座った。
大学に入ってからはじめた喫煙。
器械体操って、スポーツなのに選手の大半が喫煙者。
選手の控え室なんて、タバコの煙でかすんで見える。
おれも先輩の勧めという形の強制でタバコを吸うようになった。
家では母さんがタバコを嫌うから、喫煙スペースはおれの部屋。
喘息の持ち主がタバコなんて、本末転倒だな。
最近は軽い発作もないけど。
ユウさんのタバコの銘柄はマルボロの赤。
でもって、おれも同じ。
「同じだね」
取り出した箱を見て、ユウさんは笑った。
笑うと、目じりにシワができる。
一層シブく見える。
話をした。
いろんなこと。
キンチョーしてるおれを、気遣ってくれてるのが分かる。
おもむろに立ち上がると、ユウさんはおれの隣に座った。
「これから、どうする?」
耳元でささやく。
甘い声。
おれの手に、ユウさんの手が重なる。
温かい手。
おれはこの先を想像して赤面してしまった。
それが答えになった。
「一緒にシャワーを浴びようか」
おれのオトナ的アクション。
それが今から始まるんだ。