中沢の旅立ち(6)
新幹線に乗り込む人たち。
中沢は最後に乗り込んだ。
おれは一歩後ろにさがった。
家族の別れを邪魔したくない。
そう思ったから。
「雅樹、頑張れよ」
お父さんはたった一言。
でも、その一言にいろんな思いが詰まってる。
「雅樹くん、体、大事にしてね」
お袋さん。
おれはあなたがうらやましい。
素直に彼を愛することができるから。
「これ、ウチの畑で取れたの。持っていって」
これは堀川のおばさま。
大きな大根。
ちょっと笑える。
中沢がおれを見た。
なにか言いたそうだったけど、おれは手を振るだけ。
言葉を交わすと、泣いてしまいそうだ。
元気でな。
声を出さずにそう言った。
中沢は笑顔でうなずいてくれた。
ドアが閉まる。
新幹線はゆっくりと走り出した。
東京へと。
おれは見えなくなるまで、ずっとホームにいた。
さよなら、中沢。
なんてひたってると。
「樋口くん、だったね」
いきなり呼ばれた。
その声は中沢のお父さん。
厳しい顔をしてる。
「は、はい」
背が高く、スマートで、スーツがよく似合う人だ。
「君のおかげで、私は跡取りを失ったよ」
やっぱ反対だったのか。
「あなた、今ここで言わなくても・・・」
お袋さんは申し訳なさそうに、「ごめんなさいね」とおれに頭を下げた。
「黙ってなさい。彼が口出ししなければ、雅樹は会社を継いでくれたんだからな」
おれはどうすればいいんだろう。
子供みたく、あわてふためいて、ビビって、ただ謝ればいいのか。
いや、それはダメだ。
おれは、大きく深呼吸した。
中沢、おれ、頑張る。
お前を守ってみせる。
そう自分に言い聞かせ、おれはお父さんを見上げた。