中沢の旅立ち(4)
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結局、おれはあの日、涙一つ見せなかった。
泣かないとゆー意地だ。
飯田先生が最後に「贈る言葉」を歌ってくれた。
泣きながら。
感動のシーンだった。
みんなも泣いてた。
けど、おれと中沢は無表情を貫いた。
二人とも、正直じゃなかった。
今になって思う。
一緒に泣いておけばよかったって。
「ふうん。私、卒業ン時、号泣しちゃったけどな~。みんなと一緒に」
ケイコちゃんはコーヒーにミルクをたっぷり入れてかき混ぜた。
「あの頃はさ、素直になれても正直にはなれんかったのよ。若かったね~」
おれも自分にコーヒーを淹れた。
ケイコちゃんは今年高校を卒業して福祉関係の専門学校に進学する。
今、ヒマだと言って店に来てる。
ちなみにカレシ君とも続いてるらしい。
少し分けてほしいな。
なにを?って言われると困るけど。
一応、アダルトでオトナなおれ。
若く、カッコイイ男の子を見てると、いろんなことを妄想しちゃうのよ。
その内容を言ったら、怒られるぞ。
「でさ、その中沢って人、それが最後なの?」
「いや、もう1回会った。それで終わり」
遠い過去から現在に近づくにつれ、記憶は鮮明になる。
おれは、あのときのことを思い出した。
「あ、小森、砂糖くンない?」
おっとォ。
おれは再び思考を現在へと引き戻した。
脳細胞の混乱に、頭が少しクラクラした。
「あまり入れると太るよ~」
「大丈夫。ダイエットしてるから」
・・・ダイエットって、太ってる人がするものじゃない?
言葉の使いかた、間違ってるぞ。
まァいいや。おれも太ってもないのに、ダイエットプログラムDVD見てるし。
「ね、小森。これ、私にも作れるかな?」
カップを片手に、ケイコちゃんはショーケースに並ぶアクセを眺めた。
「ん~、作れないことはないだろうけど、ヤケドするかもよ?」
「やってみたいな」
おれは少しだけ考えた。
「いいよ。なにが作りたいの?」
「ネックレスのトップ。カレシとおソロで」
なるほど。
「んじゃ、どんなのが作りたいか、考えててね」
「らじゃ~」
ふと思った。
こーゆーのもありかと。
教室を開くか。
いいかも。
ケイコちゃん、そのアイデア、いただき。




