中沢の旅立ち(3)
「そうか。・・・もう、会えない、か」
「そんなコトないだろ」
中沢は否定してくれたけど、その言葉は社交辞令ってヤツだと思った。
行くなって言いたい。
けど、中沢を応援したい気持ちもある。
なによりも、そうさせた責任の一端はおれにもあるはず。
その責任を、おれは果たさなきゃいけない。
「東京でも頑張れよ」
行くな。
「おう、樋口も頑張れよ」
一緒にいてくれ。
「言われなくてもやるさ」
おれはコブシを上げた。
中沢もおれに合わせてコブシを上げた。
その手がおれの手に触れる。
冷たい空気に、おれの手の甲に触れる中沢は温かかった。
いつまでも触れていたい。
そう思えば思うほど、おれは中沢から離れなきゃと自分に言い聞かせた。
「中沢、ホントにありがと。お前に会えて、ホントによかった」
人を好きになること。
生きることが好きになること。
自分を好きになること。
いろんなことを教えてもらった。
「それはおれのセリフだ。樋口、ありがとう。おれ、一生、お前のこと、忘れないよ」
おれにとって、それは最高の言葉だった。
校長の長い話よりも、飯田先生の言葉よりも、中沢の言葉はおれの心に深く刻まれた。
目にじんわりと熱いものがわき上がる。
泣くな。
おれはグッとこらえた。
そう、それでいい。
「さ、行こう。みんなが待ってる」
「ああ」
立ち上がって先を行く中沢の背中を見ながら、おれは目に溜まり始めた涙をぬぐった。