10章 抱擁(1)
順調だ。
店を構えて1ヶ月。
忙しさはあいかわらず。
売り上げも好調。
・・・ネットショップの方が、だけど。
おれは新作を矢継ぎ早に発表した。
新作はすぐに売り切れた。
・・・ネットショップの方で。
それでも再販の要望が来る。
・・・ネットショップ・・・もういいか。
うれしいヒメイってヤツだ。
こんなに好調でいいのだろうか。
どこかに落とし穴でもあるんじゃなかろーか。
足元を見回したけど、そんなものは見えない。
見えてないだけかも。
おれは形成して乾燥させたシルバークレイを電気炉に入れた。
スイッチオン。
あとは焼きあがるのを待つだけ。
とりあえずは、終わった。
「・・・しんどい」
さすがに疲れた。
明日は休みだ。
もうちょい頑張ろっと。
頑張るのもいいけど、ときには休息もいる。
おれは決めてた。
2年だ。
2年で事業を拡大させる。
シルバーアクセはメイン。
だけど、それ以外にもやりたいことができた。
そのためにも、店を大きくしなきゃいけない。
それがおれの次の目標。
計画は順調。
だからコワイ。
「よっく~ん、母さん、夕飯のお買い物行ってくるからァ」
「はい、行ってらっしゃい」
母さんには前の職場を辞めてもらった。
おれ一人では、この店を管理できないから。
製作中にお客が来たら、まともに対応できない。
その点、母さんは接客のベテラン。
教えることなんてほとんどない。
アクセの種類や使い方を少し教えただけ。
午後5時。
ピークは過ぎた。
閉店は午後6時。
ちょっと早い気もするけど、オープンして2週間は8時まで開けてた。
シルバーアクセの店なんて、大勢のお客でにぎわうなんてことはない。
6時以降になると、お客はまったくだった。
おれは工房の片付け作業に入った。
展示スペース以外は使わないから。