迷走(7)
「あ、あの、ご迷惑なら、帰りますけど。プリント渡すだけですので」
「あら、いいのよ。雅樹くん、この前、兄と進路のことでもめちゃって、ふてくされてるのよ」
・・・えーと、只今、脳内で情報処理中。
しばらくお待ちください。
・・・お待ちください。
・・・・・・。
分かった!このおばさまは中沢のお父さんの妹さんだ。
なにかの事情で、妹さん夫婦の家でお世話になってる、と。
「ね、雅樹くん、学校ではどんな感じかしら?」
持つと割れそうなくらい薄い磁器のティーセットをトレイで運びながら、おばさまは心配そうな顔を見せた。
「あまり、しゃべらないです。でも、友だちがいないってワケでもないです」
後半はフォローです。
あ、でもウソじゃないし。
「そう。やっぱり。昔はよくしゃべる明るい子だったのに」
なにかあったんですか?
聞きたいけど、おれにはなんだから入っちゃいけない部分に思えた。
「あの子ね、幼いころにお母さんが家を出ちゃったのよ」
聞きもしないのに、おばさまが答えてくれた。
「あのころは兄の事業もうまくいってなくてね。美佐子さんも苦労続きで大変な思いをしてて、出て行く気持ちも分からないでもないの」
情報更新。中沢のお母さんは「美佐子」さん。
「結局、離婚が決まって、兄も事業であちこち飛び回ってたから、雅樹くんのためにって再婚したの」
いやぁ~。
言わんでも分かる。
フクザツな家庭環境。
「2年後に再婚したんだけど、お相手の奈津美さんはいい方で、一生懸命に雅樹くんと打ち解けるように努力なさってたんだけど、雅樹くんの方が美佐子さんを忘れられない感じで、奈津美さんになつかないのよ」
絵に描いたような家族ドラマ。
「今度の進路の件でもね、奈津美さんは雅樹くんの好きなようにさせてあげたいと思ってらっしゃるんだけど、兄がどうしても会社を継がせたいみたいで」
ホイ来た。
まさにドラマ。
ありがちな設定でネタにもならんけど、実際にあるんだ、こーゆーこと。
「おばさん、余計なこと、言わないでもらえますか?」
「あら、雅樹くん。ごめんなさいね」
おばさまペロっと舌を出してみせた。
まったく悪びれてないところがスゴイ。
これぞ年の功。
不機嫌丸出しの中沢は、おれとおばさまを交互ににらんだ。
けど、それも一瞬。
大きく息を吸って、吐いて。
中沢の顔から表情がなくなった。
「来いよ」
トレイに載ったままのティーセットを持つと、中沢はさっさとリビングを出て行った。
状況についていけないおれの目は、中沢の後ろ姿とおばさまの間を何度も往復。
「行きなさい。あれでうれしいのよ。あとで、おやつ持っていってあげるから」
むむ~。
どこをどう見れば、あれがうれしそうに見えるんだろ。
拡大解釈だ。




