秋の空(7)
多分、お父さんは中沢がなにを望んでいるのか、知ってるんだ。
けど、自分の考えも知ってもらいたい。
フクザツだ。
おれはどんな返事をすればいいんだろ。
考えた。
テストのとき以上に、脳を回転させた。
「自分の思うままにすればいいんじゃないかな」
おれは正直に気持ちを伝えた。
「お父さんの言うことも正しいけど、それで中沢は満足しないだろ?だったら、自分のやりたいことをすればいい。もし、中沢がお父さんの言うとおりの生き方を選んでも、なにも得られないと思う」
おれのような、中身のない人間になってほしくないんだ。
「中沢が真剣に音楽をやっていきたいと思って、いつかメジャーになれば、お父さんも納得してくれるよ」
「・・・そうだな。ありがと」
中沢はくもりから抜け出したような笑みを浮かべた。
その笑顔はおれにはまぶしすぎる。
封印の鎖にヒビが入る。
「な、次のライブ、来てくれよ」
「・・・うん、スケジュールが合えばね」
おれは言葉をにごした。
今度はおれがくもる番だ。
沈黙が続いた。
き、気まずい。
中沢は空になった紙パックのお茶を握りつぶすと、ふっきれた笑みで空を見上げた。
「樋口、おれな、今好きな人がいるんだ」
うん、知ってる。
「前、ライブで言ってた人だろ?」
「ああ」
「告白はしたの?」
「してない。多分、おれのことなんか、見向きもしないヤツだから」
なんて人だ。
中沢の想いに気づかないなんて。
大バカヤロ~。
・・・いや、女の人だからヤローじゃないな。
なに考えてるんだろ、おれって。
「けど、いいんだ。おれはそいつを見てるだけで」
そっか。
中沢もセツナイ想いをしてたんだ。
じゃ、いっちょ、おれも。
「おれもさ、実はフラれたんだ。片思いだったけど」
おれの言葉に、中沢は目を丸くした。
意外そうだった。
「そいつには、大切な人がいたんだって。おれじゃかなわない」
お前のことだよ。
言ってやりたかった。
おれと中沢は空を見上げた。
秋の空は高い。
この空に思い描く未来。
おれの見てる空と、中沢の見てる空は違うんだろうな。
空に届く前に、この気持ちが交わればいいのに。
けど、おれの気持ちは中沢の近くにいても、ずっと交わらない。




