秋の空(5)
ドアからは見えないベンチ。
そこへ案内され、おれの足が止まった。
「な、中沢・・・」
おれの声に中沢は振り向いた。
「よォ。あれ、みんなは?」
「学食で買ってくるってさ」
そう言いながら、寺本はベンチに座ろうとした。
「ヤベ、おれ、弁当忘れたわ」
なにを言うか。
お前が弁当を持ってないことに、気づかなかったとでも思っていたのか。
おれは噛みつかんばかりに寺本を睨んだ。
けど、中沢はそーじゃなかった。
「早く取ってこいよ」
こ、こいつ、信じてる。
・・・恐ろしいヤツ。
「ああ、じゃ、先に食べてていいからな」
「りょーかい」
中沢の返事を受けて、寺本は走り出した。
けど、寺本の「応援」の形をした攻撃はまだ続いた。
なんと、まばらにいた生徒たちまでが屋上から引き上げたいったんだ。
エ、エエェ~・・・。
と、今、この状況。
おれは少しずつ、少しずつ、足を後ろにずらした。
逃げたい欲求だけがおれの脳を支配してる。
「座れよ」
ガシャン!
この瞬間、おれは鎖のついた首輪でつながれてしまった。
いかにもマンガチックだ。
で、その鎖を持ってるのが中沢。
進退窮まるとはこのことだ。
「なにやってンだ?」
そうだ。
なにやってンだよ、おれ。
フツーにメシ食やァいいんだろ。
おれは覚悟を決めてベンチに腰をおろした。
寺本へ。
あとでシメます。
覚悟しとけよ。
なんて考えてる場合じゃない。
おれは弁当を開いた。
手が震え、フタがカタカタと当たる。
「まだ、薬を飲んでるのか?」
「う、うん」
ゴメン、ウソ。
「お前、すごいな。そんな体なのに、インターハイ2位だったんだろ?」
こんな会話ができてシアワセ。
い、いかん。
おれ、なに考えてるんだろ。
しっかりしろ。