秋の空(3)
「中沢、放課後、職員室に来なさい」
翌日の朝礼で、中沢はご指名を受けた。
中沢といえば、いつもと変わりなく、イヤホンを耳に当ててる。
けど、先生の声は聞こえてるようで、無言で頷いた。
この時期に呼び出しをくらう理由は限られる。
進路だ。
まだ確定時期じゃないけど、目標は早いうちに設定しておくのがセオリー。
おれは音楽を聴き入ってる中沢を見た。
近くにいるのに、なんだかすっごく遠い存在。
そして、指向性の高い意思を感じて、ノートを取り出した。
「樋口ィ~」
「ほらよ」
「おォ!?なんでおれの心の叫びが分かった?お前はエスパーか」
ざけんな、寺本。
「お前がノートを借りにくる以外で、おれに近づいたこと、あったか?」
「失敬な。おれがそんなに他力本願な人間に見えるのか?」
「じゃ、ノートはいらない、と」
「スンマセン。貸してください」
寺本は机に額がつくくらいに頭をさげた。
ため息ながらも、おれはノートを貸してやることにした。
ラッキー♪なんて言ってる寺本は、おれの視線の先を見た。
「中沢かァ。あいつだけなんだろ?進路決まってないのは。まだ2学期なんだしさ、テキトーに書いときゃァいいのに」
ま、あいつは進路なんて必要ないかもしれんけど。
つぶやいたその言葉が引っかかった。
「なにそれ」
「お前、知らないのか?あいつの父親、会社社長だぞ。一人息子だし、会社継ぐんじゃねェの?」
へェ、社長ご令息だったとは。
「大学なんて行かなくても、現場修行を1,2年もすれば大卒と並ぶだろ。ヘタに大学行くより確実な進路だな」
詳しいな、寺本。
けど、疑問はある。
それなら、なんで進路に「家業を継ぐ」と書かなかったんだろ。
「なァ、樋口」
「なんだよ、まだ借りたいノートがあるのか?」
「お前、ずっと中沢を見てるな」
ぶんっ!と音がなるほどに、おれは中沢から顔をそむけた。
「な、なに言ってンだよ」
「その反応、恋する女の子みたいだな」
「バ、バカ言うなよ」
おれは本を取り出して読書。
そうだ、読書しよ。
寺本、ジャマだ。
落ち着いたテイを装ったけど、体はそうじゃなかった。
面白いように手の中で跳ねる本は、床へと落下。
おれが取るより早く、寺本が拾ってくれた。
「樋口、大丈夫だ。おれはお前がゲイでも友だちだ」
「ち、違う。違うって」
「まァまァ。誰にも言わないから。それにしても、こんな近くにゲイがいるなんてな~。おれ、感動だわ」
寺本はおれをゲイと決め付けてる。
やっぱおれってゲイなんかな。
本人すら半分も自覚ないのに。
「頑張れよ、応援するから」
しないでほしい。
応援なんて。