秋の空(2)
ちょっと前までは、一緒にいられることがシアワセだった。
今は、ただ苦痛なだけ。
中沢とは少し話しをする程度で、以前より親密になったりはしない
遠ざけるようなこともしないけど。
夏も終わった9月。
そろそろ進路も考えないといけない時期になってきた。
おれは地元の大学を選択していた。
監督や担任の勧めでスポーツ推薦。
家から通える範囲内ってのもあって、即決。
あとは高3のインターハイで上位を狙えばいい。
気が抜けない。
「樋口」
呼ばれて振り向くと、そこには上野がいた。
「なに」
「お前、最近、ゆるい」
ゆるいってなんだろ。
・・・ああ、集中してないってことか。
今、部活中で上野と後輩何人かで、鉄棒の練習中。
「そうかな。普段と変わらない、けど」
そういうふうに努めたから間違いない。
「お前、新技覚えたのか?」
・・・そーいやァ、覚えてないな。
夏休みが終わっての試合でも、新技を出さなかった。てか、覚えなかった。
おかげで、今までの技の熟練度は上がったけど。
「フラれたか?」
おれは鉄棒をつかもうとジャンプしたけど、空振りで落ちた。
チラリと上野を睨んだ。
「相手もいないのに、フラれたりしないよ」
「片思いだったのか」
2度目のジャンプも空振りした。
「いい加減にしなよ」
半分はおれ自身に向けて言った。
上野の言うとおりだ。
ゆるいのかも。おれ。
気分を引き締めて、おれは今度こそと気合を込めて鉄棒をつかんだ。
「・・・悲しいな」
上野の一言でおれは落下。
「お前、楽しいな」
マットの上でしりもちをついたおれを、上野はSっ気たっぷりな笑みで見下ろした。