8章 秋の空(1)
「悲しい恋だったんだね~」
キミちゃんが涙を拭いた。
「なんでキミちゃんが泣くのよ」
あまりゴシゴシすると、ほら、化粧が・・・。
なんだ、この空気は。
すっかりシメっぽいぞ。
おっかし~なァ。
つまらない昔話のはずなのに。
「で、そのあと、どうなったの?」
同席してた化粧品担当のお姉さん、重谷さん。
おれとはいつも恋愛話や他愛のない話で盛り上がるんだ。
「インターハイは団体3位、個人では総合2位だった」
「そーじゃねェよ」
はい、ごめんなさい。
「テキトーな距離をたもって、普段と変わらないようにしてた」
「きっぱり諦めたの?」
「それがそうもいかなくてさ。結構未練ありまくりで。今とおんなじ」
中沢へのおれの気持ちは、封印しただけで消したワケじゃなかった。
印が弱かったんだ。
つまり、おれの意思が弱かったってこと。
おれは中沢を想い続けた。
―――――――――
「樋口、お前、なんですぐ帰っちまったんだよ」
新学期が始まった初日。
真木は会うなり口を尖らせた。
「ゴメン、ちょっと気分悪くなってさ」
「そっか、悪いな。おれらだけ盛り上がって気づいてやれなくて」
「いや、いいんだ。こっちこそ、ゴメン。黙って帰ったりして」
「ライブが終わったあと、中沢、お前を探してたぞ」
キュ~っと胸が締めつけられる。
「中沢」とゆー名詞を聞いただけで。
探すなら、気になってる人を探せばいいのに。
そんなの、見てられない。
その人に告白なんてしてさ、晴れてカノジョとなった人に「おれの友だち」なんて紹介され日には、おれは絶望の底に落ちる。
それだけはやめていただきたい。
帰ってよかった。
「それにしても、中沢もスミに置けんヤツだな。気になる人だってよ。お前も聞いただろ?」
聞いたよ、もちろん。
「どんなヤツなんだろうな。中沢の気になる人って」
「さァ。きっとステキな人なんじゃない?」
おれ、今、ひきつってる。素直に笑えない。
おれのツライ日々がスタートした。




