歌声(2)
ライブ会場のあるホールは、古びた雑居ビルの最上階。
事前に地図で確認しといたけど、迷うんじゃなかろーかと不安だった。
けど、迷わなかった。
だって、明らかに「今からライブ行きま~す」って感じの人たちが同じ方向に歩いてるし。
おれはその人たちについて行っただけ。
近くで偶然見かけたコインロッカーにカバンを入れた。
学校のカバンを持ったままじゃ、なんかヘンだしさ。
開場は6時30分。 まだ少し時間がある。
おれは最上階に上がらず、1階のゲームセンターでウロウロしてた。
みんな楽しそうだ。
これが年ソウオウの楽しみ方なんだろうか。
この場のフンイキは、おれには似合わないな。
そう思うと、ライブに来たこと自体にちょっと後悔。
来るんじゃなかったかな。
帰ってしまおうかとゆー欲求だけが、だんだんと強くなってきた。
「よォ、樋口」
背後からかけられた声に、おれは振り向いた。
真木だった。
「やっと来たな」
真木はニカッと笑ってくれた。
その笑みに、おれの不安は消し飛んだ。
知ってる人がそばにいることが、こんなに安心するとは。
「それにしても、シブくキメたな」
真木がおれを上から下まで目を走らせた。
「おれのじゃないんだ。おれ、こーゆー服持ってないから、アニキに借りたんだ」
真木はTシャツに、使い古してところどころ破れてるGパン。
おれとは違ってサマになってる。
・・・けど。 気になる。
「真木、Gパン、破れてるけど」
「これはそーゆーデザインなんだよ。お前はホント勉強以外、なにも知らないんだな」
イヤミってより、呆れたって感じだ。
ふうん、それがデザインなんだ。
ちょっとハズいな、おれ。
それをかくすように、話題を変えた。
「中沢は?」
「もう、会場に入ってるよ。準備とかあるんだろ」
そりゃァそーだ。
真木は一人じゃなかった。
クローンが・・・じゃなくて、何人かの「お友だち」がいた。
「こいつは樋口。学校イチの秀才だぞ」
などと紹介してくれた。
ちょっとこそばゆい。
「はじめまして、樋口です」
おれは軽く頭を下げた。
「こいつらは、おれの知り合いでバンド組んでる。今回は出ないけどな」
こいつらさんたちは、それぞれにラフな形で挨拶してくれた。
みんな気さくだ。
その気さくさに、おれの方がちょっと引き気味。
「そろそろ行くぞ」
ここから先は完全に未知の領域。
おれは真木について行くしかない。