やる気の夏(7)
家に帰ったおれは、最大の難問にぶつかっていた。
明日のライブ、着ていく服がない・・・。
おれは外出時には制服かジャージ。
普段に着る服で、外に出られるようなものなんてない。
こんなことなら、母さんが買ってあげると言ったときに
素直に買ってもらえばよかった。
おれはいつも、こう答えてた。
「そんなものに金を使うくらいなら、本がいい。一冊でいいから」
う~。 思いっきり後悔。
どうしよう。
・・・・・・。
ひらめいた!
おれは部屋から飛び出て、
一階に駆け下り、電話を取った。
覚えたTELナンバー。
指が勝手に動いてくれる。
コール3回で出た。
『なに?』
相手の電話にはこちらの番号が通知されてる。
名乗る必要もない。
「あ、あの、カイ兄」
『なんだ、ヒロか。珍しいな。お前が電話よこすなんて』
カイ兄。樋口快斗。
おれの兄。上から3番目の。
カイ兄は年も近いせいか、いつも一緒だった。
いい加減で、勉強もできないカイ兄だけど、おれにはいつも優しかった。
上の兄たちは年が離れてて、ただコワイ存在でしかなかった。
「あのさ」
『ん?』
「服、貸してくれないかな」
『服?いいけど、なにするんだ?』
「明日、友だちのライブがあるんだ。おれ、服、持ってないから」
『ふうん。いいぜ。好きなの着ていけよ。ああ、けど、パンツだけは用意しとけよ?』
「パンツ?なんで下着がいるの?」
電話の向こうでため息。
『・・・お前な、勉強と体操だけできてりゃァいいってモンじゃないだろ。パンツってのは下着じゃない。ズボンのことだ』
なるほど。
勉強になりました。
確かにカイ兄はおれより背が高い。
上着はなんとかなるにしても、ズボンは情けないことになりそうだ。
『で、どんなパンツ持ってンだよ』
どんなと言われても・・・。
「Gパンくらいかな。紺色の」
『分かった。それに合うヤツを探しとくから。それと、明日はおれ、1日いないから。鍵は母さんにあずけてある』
「うん、カイ兄、ありがと」
『おう。デートなら、ゴムは持っていっとけよ~』
どいつもこいつも。
頭ン中はそればっかりか。
おれは受話器がきしむほど握りしめた。
「違うから。じゃね」