やる気の夏(6)
おの頃の母さんの作る料理はハンパなかった。
現役選手だったからいいけど、フツーに食べてたら確実に太る。
が、今もそれは変わってない。
おかげで毎日のエクササイズは欠かせない。
おれは毎日30分の運動をしてる。
ジョギングしたり、
テレビ通販で買ったダイエットプログラムDVDを使ったり。
その効果があってか、一応体型だけはキープしてる。
筋肉は落ちたけど。
今日は昼の仕事が休み。
家で個人事業。
最近、注文が多い。
うれしいけど、忙しい。
新商品を待ちわびるメールも何件か受け取った。
感謝のお返事を送る。
個人事業は一人で何役もこなさないといけない。
アクセ作りだけが仕事じゃない。
パソコンを使った仕事を終え、おれはアクセ作りを始めた。
もうなれた作業に頭はいらない。
体が勝手に動いてくれる。
けど、暑い。
おれの寝室兼作業部屋にはクーラーがない。
人工的な冷気が好きじゃないんだ。
だから、おれの部屋には扇風機しかない。
シルバーアクセは銀粘土を焼いたり、
銀そのものを溶かしたりと、熱を出す仕事が多い。
よって、この部屋ってば、暑いのよ。
扇風機は熱風をかき回すだけ。
おれは汗をにじませながらの作業。
集中すると、頭の中はまたあの頃へと戻っていく。
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7月29日。
おれたち体操部は2位を大きく引き離して優勝。
「お前はバケモンか」
上野が感嘆まじりにため息をついた。
「フツーの人間だよ。天才なのは確信してたけど」
上野だって総合2位だ。 しかも、あん馬は1位じゃん。
それ以外の種目も3位以内に入ってるし。
「樋口先輩、個人総合優勝、おめでとうございます!」
後輩たちが祝ってくれる。
そう。おれは団体戦でも優勝したけど、個人総合でも優勝した。
けど、今回の目的は団体戦だった。
初めての団体戦。
いつもは個人で出場してたから。
「みんなのおかげだよ」
心からそう思える。
そして、中沢のおかげだ。
さァて。
おれは自分に課した目標をクリアした。
明日の中沢のライブ。
胸を張って行ける。
おれの頭の中は、みんなへの感謝から、中沢へとシフトしていった。