やる気の夏(4)
夏休み。
いやァ、今年の夏はイチダンとアツイ。
「お前がアツイんだよっ!うっとうしい!」
上野がなにやらうるさいが、ほっとく。
おれは流れる汗をタオルでふいた。
なんて充実した毎日だ。
感動。
今、28日の試合に向けて調整中。
おれは完全に調子を取り戻した。
いや、それ以上。
なぜなら、この試合が終われば中沢のライブが待ってるから。
おれは頭の中で、この試合をカンペキにこなし、
優勝したゴホウビにライブに行くと設定。
優勝しなくても行くけどさ。
でも、その方が燃える。
それに、みんなと優勝したい気持ちにウソはない。
おれは6種目すべてで新技を習得した。
今回の試合で使うために。
前回は病み上がりもあって、本気じゃなかったし。
団体は優勝したけど、おれ自身は初めて個人総合の優勝をのがした。
見てろよ~。
ド肝を抜いてやる。
おれの、おれたるユエンを見せつけてやる。
「樋口、調子がいいな」
吉井コーチが新入部員の指導をしながら、おれに話しかけてきた。
「ええまァ」
どう言っていいのか。
このフツフツとわき上がるエネルギーを。
「カノジョでもできた か」
「違います」
即答してしまった。
「へェ~」
吉井コーチがニヤニヤと笑ってる。
完全なる勘違いです。
「お前、カノジョができたンか?」
上野までニヤニヤ。
「違うってば」
「まさか、根岸か?」
「なんでよ。違うって言ってるだろ」
「だよな~」
安心したようにうなずく上野。
「ま、誰だか知らんが、お前が恋をするなんてね~。お兄ちゃんはウレシイぞォ~」
「誰がお兄ちゃんだ」
「おれの方が年上だろうが」
「3ヶ月だけね」
「樋口」
「はい」
吉井コーチがマジメな顔をしてる。
な、なんだろ。
おれ、怒られるようなこと、したかな。
「避妊はちゃんとしろよ。それに試合前日はやめとけ」
ヒニンってなんだろ。
・・・ああ、ヒニンかァ。
・・・・・・避妊!
「そんなこと、しませんから」
血が頭に逆流してくるのが分かる。
大人ってこういうこと平気で言うよな。
「まぁまぁ、ヤルなって言ってもヤリたがる年なんだから」
もういいや、面倒くさい。
「心得ておきます」
テキトーに返事しとこ。