やる気の夏(3)
中沢はいつもの無表情のまま、
おれの席に向かって歩き出した。
わざわざ断るためだけなら、来なくてもいいのに。
中沢のばかやろ~。
「樋口」
「はい、なんでしょう」
今日初めて、中沢がおれに話しかけてくれた。
うれしいのに、
セツナさは消えない。
嫌われてるんだし。
「今度のライブ、ゼッタイに来て欲しい」
ほら言われた。
ダメじゃん。
「・・・はい。行きます」
おれはどんよりと曇った顔で答えた。
行きますよ。
分かりました。
行きゃァいいんだろ。
ちくしょ~。
なにがライブだ。
おれは中沢に嫌われてンの。
それなのに、なにがライブだよ。
あ~ぁ・・・。
中沢の歌、聴きたかったなァ。
・・・ライブ。
・・・・・・?
・・・・・・!
「行きます!」
おれは中沢の鼻先とぶつからんばかりに身を乗り出した。
「行かせていただきます!」
「お、おう。サ、サンキュー」
中沢はおれの気迫におされ、一歩後退。
「ゼッタイ行くから」
「何度も言わなくてもいいから」
そのときになって、おれは中沢に近づきすぎたことに初めて気がついた。
「!!! ゴ、ゴメン!」
おれのヘンな反応に、中沢は目を丸くして笑った。
その笑顔もまたなんとも言えず・・・。
「お前、おかしなヤツだな」
いい。 中沢におかしなヤツだと思われても。
「日時は7月30日。場所は○×ホール。開場は18時だ」
おれはそれを口の中で復唱した。
暗記完了。
そして、頭の中でスケジュール帳を開いた。
えーと、確か、28、29日と県外で試合があった。
29日には帰ってこられる。
しかも30日の練習は軽練。
時間も短い。
チャンス! マジ行ける!
おれは感謝した。
今度こそ、神サマだ。
そうに違いない。
ありがとうございます!
「おれ、頑張るから!」
「え、なにを?」
ワケのわからなそうな中沢だけど、おれはガゼン張り切った。
「頑張ってライブ行くから!」
「いや、フツーに来てくれれば・・・」
「うん、フツーに頑張る!じゃ、おれ、練習があるから!」
わき上がるエネルギーをおさえきれず、おれは走り出した。
やった。 やった! やったァ!!
中沢のライブに行ける。
しかも、中沢本人からのお誘い。
おれは部室まで全力で走り続けた。
そしておれの夏が始まった。




