接近(7)
次の日。
笹川先生の言うストレスを部分的にも解消したおれの体調は、メチャメチャよかった。
そして、忙しかった。
今、休憩中。
本なんて読んでる場合じゃない。
「カラーコピーにしてもらえばよかったかな」
「お前はおれを破産させるつもりか?」
おれのつぶやきに、寺本がにらんだ。
休んでる間に進められた授業内容。
それを写すだけなら、モノクロコピーで十分。
けど、重要なのは、カラーで書き込まれた部分。
そこはテストにも出るくらい重要だったりする。
完全でない情報からテスト対策。
そこでカギとなるのが、先生のキャラ。
あの先生なら、ここでチェックを入れるはず、とか。
テストそのものを教科担が作るとは限らないけど、慣れた先生なら推測も難しくはない。
「んじゃ、ここと、ここと、ここ。確実に暗記すること」
おれはコピーされた紙の上から蛍光ペンでラインを引いた。
おれならマル暗記だな。
よし、英語は終了。
次は数学。
・・・数学かァ。
ちと、ニガテなんよね~。
コピーの束を目の前にして、おれは及び腰。
マル暗記しろなんて言えないし。
さっきまでの勢いはなく、おれはコピーをじぃ~っと見てるだけ。
「樋口、頑張れ。お前だけが頼りだ」
寺本の声援。
うれしいけど、そもそもお前がきちんとノートを取っていれば、こんな作業なんて必要ない。
おれの視界の右からノートが出現。
いきなりだったら魔法だな。
けど、ノートは人の手によって運ばれてきた。
「これ、見ろよ」
その声におれは顔を上げた。
・・・な、中沢!
おれはビックリ&フリーズ。
「いらないのか?お前、数学、苦手なんだろ?」
なんで知ってるんだろ。
「樋口、数学苦手だったンか?」
信じられん、といった顔の寺本。
「お前、前回のテスト、何点だった?」
「96点」
「お前らの世界ではそれを苦手と言うんか?」
そんなこたァどーでもいい。
「あ、ありがと」
おれはキンチョーで手が震えた。
「まだ薬使ってるのか?」
中沢はそれを薬の副作用と思ったらしい。
どこまでもするどいヤツ。
この前、薬を服用するところを見ただけで、手の震えが副作用と見抜いた。
けど、今のはまったくの勘違い。
その勘違いに感謝。
「う、うん。・・・助かる」
「じゃな」
おれの気持ちは激震。
それに気づかない中沢はさっさと自分の席へ戻ってしまった。
そこは鈍感。
まァ、気づかれても困るけど。